東日本大震災と原発震災

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陳情書

災害廃棄物の広域処理の問題点を認識し、
甲府市独自の被災地支援ビジョン策定を求める

2012年4月3日
甲府市長 宮島 雅展殿

陳情の趣旨

 私たちは、山梨県民と震災で東北・関東などから転入してきた県民が手を取り合って、放射能からいのちを守る取り組みをするために、そして何よりも汚染地に留められている人の支援をするために、市民の手によって発足した団体です。
災害廃棄物の広域処理には、被曝リスクという点からも、被災者支援という人道上の理由からも、県政の未来を考える上からも、根本的な問題があると考えています。

山梨県は、東北・関東や長野・静岡などの近隣県に比べ、福島第一原発事故による放射性物質の降下量が少なかった自治体です。そのため山梨県には、震災後にそれらの土地から居を移した人が数多くいます。中でも、甲府市は、山梨県の県庁所在地として、県政の要を担っています。
こうした立場から、被災地にとってもっとも有益な災害廃棄物処理のあり方は何か、また被災地が本当に必要としている支援は何かについて、様々な方策を検討することが求められています。
私たちは、今回の原発事故は東京電力の責任によるものであり、これを踏まえて合理的な解決がなされるべきであると考えています。
甲府市民が現在および将来的にも、健康で安全かつ快適な生活を送れるよう、また、被災地復興については、甲府市だからこそ可能な貢献ができるよう、貴職に以下の2点を陳情いたします。

[1] 国と環境省の要請に基づく「災害廃棄物の広域処理に関する検討」について、災害廃棄物の安全性が確保できず、正しい情報の共有化や県民・市民的な議論が行われない現状のまま、安易に受入れを判断しないようお願いいたします。

[2] 被災地支援については、避難者の受け入れの継続や生活支援、原発事故による高汚染地への安全な食糧の提供など、甲府市だからこそ可能な方策のご検討をお願いいたします。

陳情の理由

1.「災害廃棄物の広域処理に関する検討」について
(1)産業廃棄物、化学物質、重金属が含まれている災害廃棄物は、一般焼却所で対応できない。
 震災によって生じた災害廃棄物には、アスベスト、ヒ素、六価クロム、PCBなどの、特別管理産業廃棄物、化学物質、重金属が含まれており、これらを完全に測定、分別することはできません。一般の焼却炉は、産業廃棄物の処理に対応していません。
 一般ゴミに含まれるレベルの化学物質、重金属は、薬剤処理などで処理できる可能性がありますが、震災によって生じた災害廃棄物に含まれる、それら有害物質の総量は、未知数です。したがって、そのような災害廃棄物の焼却は、有害物質の拡散、汚染を広範囲にわたって引き起こすリスクを伴います。
(2)放射能汚染検査には不備があり、安全性を確保できない。
 現状の放射能汚染検査のほとんどは、γ線核種しか対象にしていません。強い毒性のある、放射性プルトニウム、放射性ストロンチウムなど、α線核種とβ線核種の測定をせずに安全を確保することはできません。γ線核種も、検出下限値の切り上げや、測定時間短縮によっては、不検出になりえます。
 しかも、災害廃棄物の汚染調査は、サンプル調査です。高度汚染が推測される災害廃棄物が、サンプル調査から除外された場合、実際の汚染度よりかなり低く試算される可能性があります。かりに、検査された災害廃棄物が、基準値の100ベクレル/kg 以下であったとしても、焼却される災害廃棄物総量が増えれば、放射性物質量もそれに応じて多くなります。重量あたりの基準値を守ることは、必ずしも安全を保障しません。
 なお、災害廃棄物の安全性をアピールするパフォーマンスとして、災害廃棄物に空間線量計をかざし、上昇が見られないと主張されることがあります。災害廃棄物の汚染度は、空間線量計では測定できません。空間線量計が 0.01μSv 上昇するようであれば、その災害廃棄物は数百~数万ベクレル/kg 汚染されている可能性があります。100ベクレル/kg 程度の汚染分析はをおこなうには、ゲルマニウム半導体計測器での分析が必須です。
(3)クリアランスレベルを下回る「放射性物質に汚染されていない安全ながれき」は存在しない。
 事故前のクリアランスレベルを満たす災害廃棄物を受け入れたいという自治体の要望に関しては、環境省は「災害廃棄物の広域処理の推進について」にて、事故前のクリアランスレベルを「相当程度保守的であり、安全側の値」(3ページ)と位置づけ、「放射性セシウムが検出されないことを求められたり、その濃度測定に際して、より低い濃度の検出下限を求められたりする場合がみられるが、災害廃棄物について、受入の際に放射性セシウムの 100ベクレル/kg というクリアランスレベルを下回る濃度を求めることは適当でない」(17ページ)と言及しています。
 すなわち、広域処理においては、福島第一原発事故前の国の安全基準を満たす「安全ながれき」は存在しないことを、国は前提としています
被災3県のうち、もっとも汚染の少ない岩手県と、山梨県を ①2011年3月~8月の放射性セシウムの降下量、②一般ごみの焼却灰の汚染度(セシウム値)の平均値、③土壌の汚染度(セシウム値)の平均値の3点で単純に比較しても、岩手県のがれきには山梨県の一般ごみから出る量の少なくとも7倍の放射性セシウムが含まれていると推察できます。(別ファイル:棒グラフ参照)
【原子炉等規制法におけるクリアランス制度について】
(4)原子炉等規制法と矛盾する、ダブルスタンダード(二重基準)の問題がある。
 原子炉等規制法では、原子力施設内における放射性廃棄物の処置として、放射性セシウムでは 100ベクレル/Kg をクリアランスレベルと定めています。そして、それ以上の汚染物を放射性廃棄物と規定、資格を持つ取扱管理者以外がこれを移動することも、放射性廃棄物最終処分場以外に廃棄することも固く禁止しています。この基準は安全の観点から定められています。
 一方、災害廃棄物の広域処理について、環境省は福島原発事故後、焼却灰などを一般廃棄物として自治体が処分場に埋め立てる基準を、放射性セシウム 8000ベクレル/Kg 以下とし、さらに11年8月27日には、10万ベクレル以下の場合も一般の最終処分場で埋め立てを容認する方針を決めました。これは原子炉等規制法と矛盾しますし、一般的には、原子力施設内の基準より、外の一般地の基準はより厳しくするべきであると考えられます。石川県の谷本正憲知事は、「ダブルスタンダードではないか。これでは住民は納得しない」と語り、不信感をあらわにしています。
(5)放射性物質が含まれる災害廃棄物は、一般焼却所で対応できない。
 災害廃棄物を焼却する「甲府市環境センター」のある上町は近隣に甲府城南病院、市立甲府病院、小瀬スポーツセンター、また新生保育園、石和誠心幼稚園、山梨英和幼稚園などの保育施設があり、住宅地としても人気の高まっている地域です。同センターにおける、被災地のがれきの受け入れには以下のリスクが伴います。

<排ガスにおける問題点>
 焼却所のバグフィルターは、放射性廃棄物の焼却に対応していません。環境省のデータはバグフィルターに湿式ガス洗浄装置と触媒脱硝装置を組み合わせた特殊な排ガス装置により実験したデータであり、測定方法に関しては廃棄物自然循環学会でも日本弁護士連合会でも異論の声が上がっています(添付2、添付3、添付4)。

 事実、東京都の汚泥焼却施設近傍では、震災後の生活ゴミの焼却の際に、その施設がバグフィルターと排ガス吸着の設備を備えているにもかかわらず、空気中にセシウムを含むダストが舞上がる「二次汚染」の可能性が報告されました(添付5)。
 今年2月22日の大阪市議会では、東京都大田区の清掃工場での試算に基づいて検討した結果、焼却炉に投入された放射性物質のうち約36%が行方不明になり、焼却炉などの設備に残留、および、約11%が煙突から排出されている可能性が指摘されています。

 国より厳しい独自の基準を定めて災害廃棄物の受け入れ・焼却をしている山形県では、12月21日・23日発表のデータで放射性セシウムの降下が測定されています。平成23年12月21日9時~12月22日9時採取では、セシウム134 16MBq/k㎡、セシウム137 25MBq/k㎡と、当日の福島県の合計セシウム降下量(セシウム134 不検出、セシウム137 2.9MBq/k㎡)の14倍のセシウムが測定されています。

 さらに、東京都産業労働局の大気浮遊塵の調査では、11月には月に1回、12月には2回しか検出されていなかったセシウムが、1月には9回、2月には5回、3月に入ってからは半月ですでに3回検出されています。年末年始には福島・茨城・千葉・東京などで、セシウムの降下量が急上昇しました。東京都では、岩手県宮古市の災害廃棄物の焼却に加えて、12月には宮城県女川町のがれきの焼却実験を行い、さらに2月からは両市のがれきの本格的な焼却を行っています。
 中部大学の武田邦彦教授は、一連のセシウム降下量上昇の原因について、「風向き、風の強さ、雨の状態などから分析した結果、もっとも可能性のあるのは焼却炉などからの二次飛散。風の強い日にも(降下量は)増えず、福島原発からの風向きでは説明できず、雨の日も(降下量が)少ない。」と述べています。
 つまり、引き受ける災害廃棄物の放射能汚染が基準値以下であっても、焼却される災害廃棄物の総量によっては、莫大な放射性物質が近隣環境に放出されるということになります。たとえば、放射性セシウム100ベクレル/kg の災害廃棄物を1万トン焼却したときに出る灰に含まれる放射性セシウムは、総量で10億ベクレルになります。上記、10億ベクレルのセシウムのうち、きわめて低い試算として0.01% が焼却場の煙突から漏れると、大気中に10万ベクレルが放出されることになります。

<焼却炉メンテナンスの問題点>
 災害廃棄物に付着した放射性物質は、焼却時の温度が高いと気化して大気中に拡散される一方、焼却時の温度が低い場合は、灰への濃縮が進みます。東北・関東の放射性物質が検出された土地からの廃棄物を受け入れている東京都や山形県などの自治体では、すでに焼却灰の放射性物質の濃度が上がっています(※3)。
 そのため、災害廃棄物の焼却を始めると、炉の管理が困難になります。炉のフィルター交換や、炉の解体時には、放射性廃棄物に汚染された施設として、作業員や近隣住民の被曝を防ぐために、厳重な飛散防止対策を講じなければなりません。さらに、もし焼却所で爆発、火災等が発生した場合は、広範囲に放射性物質が飛散、降灰する可能性があります。

※3 2011年6月 東京都発表 飛灰の放射能濃度測定結果 江戸川清掃工場 9,740Bq/kg
2011年11月 東京都発表 飛灰の放射能濃度測定結果 江戸川清掃工場 12,390Bq/kg 他

<埋め立てにおける問題点>
 当然ながら、焼却灰の処分法も懸念されます。それらは、本来、厳重管理するための、核廃棄物処分場を要するものです。
 しかし、(4)で前述したように、環境省は10万ベクレル以下の場合は、一般の最終処分場で埋め立てを容認する方針を決めました。これには、原子力規制法との矛盾があります。これまでも管理型最終処分場では、有害な汚水が環境にしみ出さないよう底面や側面に遮水シートなどが敷設されているにも関わらず、破損による汚水漏れ事故が全国各地で頻発しています(※4)。明野町での事例は特に身近なところです。
 千葉県では震災以降、一般ごみの焼却灰からすでに高濃度の放射性物質が検出されていますが、2012年1月末には、同県君津市怒田の最終処分場で廃棄物の水分が地下水に漏れている可能性があることが分かりました。
 また、海面埋立をおこなっている神奈川県横浜市の南本牧最終処分場では、今年3月の市議会で、一日あたり100万ベクレル(4ヶ月強で1億3000万ベクレル)の放射性セシウムが横浜港に放出されていたことが明らかにされました。
 明野処分場での遮水シートの破損の原因解明においても住民と意見の食い違う中、仮に山梨県で甲府市をはじめとする自治体等が災害廃棄物を受け入れ、現状より高い放射性物質を含む廃棄物や灰を埋め立て、その放射性物質が地下や環境に漏れ出すようなことがあれば、飲料水の汚染はもちろん、農作物への影響も免れず、市民の健康も市の経済的利益も著しく損なわれます。

 なお、山梨県には焼却灰を埋め立てる処分場がありませんが、家庭ごみ焼却施設から出た焼却灰を奈良県御所(ごせ)市に埋め立て処分を依頼していた神奈川県湯河原、真鶴両町は、焼却灰が1キロ当たり144~490ベクレルの放射性セシウムの含むことから住民の批判が上がり、3月上旬から搬入を拒否されています。
 甲府市が被災地のがれきの受け入れ・焼却を始めた後、同じようなことが起これば、神奈川県湯河原、真鶴両町と同じく、上町の環境センター敷地内に放射性物質を含む焼却灰をとどめ置かなければならなくなります。
 前述のような、地域の環境汚染と地域住民や作業従事者の健康被害は、他人ごとではありません。また、上町の環境センター敷地内で放射性物質を含む焼却灰を管理することになった場合、セシウムは水に溶けやすいことから、焼却灰を厳重に管理する必要性も生じ、市政を経済的に圧迫します。

(6)災害廃棄物の広域処理は国費から賄われ、被災者支援予算を圧迫する。
 災害廃棄物の広域処理に、疑問を呈している被災地首長もいます。岩手県岩泉町の伊達勝身町長は、「使ってない土地がいっぱいあり、処理されなくても困らないのに、税金を青天井に使って全国に運び出す必要がどこにあるのか。」と述べています。
阪神淡路大震災では、神戸市は焼却炉を増設することにより、災害廃棄物処理に対応しました。ところが、岩手県陸前高田市の戸羽市長は、市内に災害廃棄物処理専門のプラントを作り、何倍ものスピードで処理する計画を県に相談したところ、現行法には煩雑な手続きがあり、許可が出ても建設まで2年かかるという理由で、門前払いされたことを証言しています。

 問題なく焼却できる安全な災害廃棄物なら、現地に仮設焼却炉を作るほうが経済的で、雇用の面から復興に役立ちます。一方、現地でも焼却できない危険な災害廃棄物なら、コンクリートで閉じ込める、埋め立てるといった、別の対処法を考える必要があります。なお、この際、遠方に運搬することによって汚染を拡大するリスクはとるべきではありません。
 広域処理には膨大な輸送費や処理費がかかり、すべて国費からまかなわれます。しかし、それらの費用は、被災していない自治体が受け取るより、被災者や被災地に直接回す方が、より有効な支援になります。

(7)排ガスからも焼却灰からも放射性物質を出さない専用炉が開発された。
 福島県双葉郡広野町では、2011年12月に、新しい焼却炉を試験的に導入しました。これは、放射性物質が付着したがれきを無酸素状態で熱処理し、セラミックなどに分解することでがれきの容量を平均300分の1まで減らし、さらにセラミックが放射性物質を吸着するため、放射性物質を含む焼却灰も出ないという画期的な処理設備です。
 この焼却炉においては、焼却にかかる時間を短縮する、1回の焼却物の容量を増やすなど、焼却能力を増すための課題点もあるものの、原発事故からわずか9か月で、すでに基礎となる技術は出来上がり、試験段階に入っています。全国に放射性物質を拡散して国民を危険にさらさなくとも、被災地のがれきを安全に処理する技術がすでに日本にはあるのです。
(8)広域処理が進まないことは、災害廃棄物処分の遅れの主な原因ではない。
 細野豪志環境相は、被災三県の災害廃棄物の処理が5パーセントしか進んでいないと語っていますが、広域処理に回されるがれきは、政府計画でも総量2252万トンのうちの400万トン、すなわち20パーセントにすぎません。つまり、かりに広域処理が半分進んでも、処理率は10パーセント上がるにすぎないのです。
 阪神大震災では、今回の震災と同じく約2000万トンのがれきが発生しましたが、震災後3ヶ月で被災地・神戸市や西宮市に15台(兵庫県では34基)の焼却炉を増設し、神戸市の800万トンの災害廃棄物を処理。結果、発生した2000万トンのがれきのうち、90%を兵庫県で、残りを大阪府ですべて処理しました。
 震災後1年での災害廃棄物の処理率は、阪神大震災では60%だったに対し、東日本大震災ではわずか6.7%です。
 東日本大震災の災害廃棄物の処分の遅れの主な原因は、復興庁設置の遅延、補正予算案成立の遅れなど、国の政策そのものが後手に回っているからであり、広域処理が進まないからではありません。復興が遅れている理由を、広域処理に求めることはできません。
(9)広域処理は憲法・地方自治法違反である。
 福島第一原発事故を受けての特別措置法では、「第四条 地方公共団体は、事故由来放射性物質による環境の汚染への対処に関し、国の施策への協力を通じて、当該地域の自然的社会的条件に応じ、適切な役割を果たすものとする」とあります。これは、地方自治の本旨をうたう憲法に反し、団体自治と住民自治という原則を定めた地方自治法に反します。
(10)広域処理は、国際合意に反する。
 放射性物質を含む廃棄物は、国際合意に基づいて管理すべきであり、IAEAの基本原則でいえば、拡散を防止して集中管理をするべきです。放射性廃棄物を焼却すると、気化した放射性物質は気流にのり、国境を越えて汚染が広がります。広域処理を進めるなら、日本は地球規模の環境汚染の責任を負うことになります。
(11)広域処理は、道義的に反する。
 福島原発事故によって発生した放射性廃棄物は、すべて第一義的な責任者である東電が引き取るべきものです。そうした大きな問題群を取りあげず、県内への災害廃棄物受け入れを前面に打ち出すことは、将来の県政を考えても疑問が生じ、責任の所在を曖昧にすることにつながります。
(12)山梨県での災害廃棄物の焼却は、県内の放射能汚染を広げてしまう可能性がある。
 チェルノブイリの事故の後、子供でも健康被害のない放射能のレベルは、土壌に付着している放射性物質が 30~50Bq/kg 以下の土地(当時のフランスのレベル)だと言われました。
 現在、日本でも市民の有志による土壌の汚染調査結果が出てきていますが、山梨県の土壌では12地点の測定において、放射性セシウム134と137の合計が0~49ベクレルとなっています(添付6)
 すなわち、山梨県は、子供が遊んでもぎりぎり安全なレベルの汚染にとどまっています。これは、原発からの距離を考えれば奇跡的な値で、山に囲まれている・晴天率が高いなどの条件に恵まれていたからです。しかしながら逆の視点から考えると、山梨のような盆地で放射性物質の付着したがれきを故意に焼却すれば、放射性物質は確実に盆地内に溜まります。がれきの受け入れは、幸運にもぎりぎり安全圏にとどまった山梨の汚染を、県民・市民自身の手で広げてしまうことにつながります。
(13)災害廃棄物の受け入れは、山梨県民重視の政策とはいえない。
 災害廃棄物を一般焼却所で処理すると、県内の産廃業者にはある程度の利益が見込まれますが、一般県民はリスクと不安を背負い込むだけで、ほぼ何も利益がありません。
 東京都二十三区一部事務組合は、2012年1月18日、焼却灰運搬の作業員が東京都内から出る一般ごみの処理において、2011年7月から9月までの3カ月間で最大 0.03ミリシーベルトの外部被曝していることを明らかにしました。飛灰は7月13日からフレコンバッグに詰めて、中央防波堤外側の処分場に排出していますが、「フレコンバッグは鉛などで覆ってはおらず、放射線が出ている」と、搬送車両からの放射線放出を認めています。
 がれきの受け入れに反対する大阪の医師は、医師の立場から震災廃棄物の焼却による被ばくが人体に与える影響を考察し、意見書を大阪府知事と大阪市長に提出しています(添付7)
 口から取り込んだ放射性物質と異なり、ある程度の大きさ・重さの物質は肺に沈着するため、肺から入った物質を排泄する方法はほとんどありません。ゆえに、放射性物質を含む大気を吸い込むと、長い期間直接的に放射線障害を受けることになります。喫煙により真っ黒に変色した肺、アスベストの沈着による肺がんの増加などは、肺に細かい粉じんなどの物質が沈着しやすいことを示しています。
 放射性物質は、燃やしても埋めてもなくなりません。仮に放射性セシウム134が2年後に半減期を迎え、半分に減ったとしても、事故後25年を経てなおチェルノブイリ事故による汚染の主な原因となっているセシウム137は、その後30年は受け入れた場所にそのままの形で留まり続け、環境への影響が無視できるようになるまでに100年以上の長い年月を要します。

 不幸にも福島第一原発事故により空から降ってきた放射能を、私たちは止められませんでした。私達の子供も知らずに被ばくをしてしまいました。しかし、人の手でわざわざこれ以上汚染を広げるようなことは、人として、親として、断じて許せません。原発事故が起きたからといって、人間の体が許容できる放射線量が医学的に変わるわけではないからです。

2.被災地支援について

 山梨県は、安全でおいしい食糧の供給や避難者の受け入れなどを通して、山梨県にできる最大の被災地支援を継続していくことが大切です。とりわけ甲府市は、山梨の中心としてすべての機関がそろう行政の最重要地域であり、その役割と影響力は多大です。
 甲府市では、現在、市内に避難・移住して来られている被災地の方々への様々な支援を行っています。居宅介護サービス料に関する特例や障害福祉サービス等の利用者負担の徴収猶予の設定、保育料の減免、定期予防接種・妊婦健康診査の公費負担など、被災県から要請を受けているものも含めて、支援は多岐に渡ります。
 住宅としては、市営住宅並びに旧教員住宅を提供しており、条件を満たした方は無料で入居することができます。
 山梨県全体で見てみると、山梨県市町村教育委員会連合会及び山梨県高等学校長協会では、東日本大震災において被災し、県内の小中学校、高等学校及び特別支援学校に転入学した児童生徒に対し、10万円を上限に制服や学用品等の支援も行っています。
 ぜひ、このような支援をご持続ください。そして、福島をはじめとする自主避難者にも経済支援・移住促進を行うことを目的に、可能な範囲で支援の枠を拡大することをご検討下さい。

 東北・関東の周辺で、子供が住んでもいいと言われている土壌汚染が 30Bq/kg 以下の地域は、北海道・青森県・長野県南部・山梨県・静岡県の西部です(添付6添付8)。
 山梨県は、その中でも、特に千葉県・東京都・神奈川県・埼玉県などの首都圏からの距離を考えると、家族で移住しても通勤が可能な圏内であり、仮に母子避難の場合でも父親が週末などに頻繁に会いに来られる貴重な土地です。山梨県の中でも、首都圏へのアクセスがとりわけ良い甲府市には、本会の会員を始めとして、すでに転入してきた家族も多くいますし、これから移住を検討している人もいます。転居はできなくても、週末に放射能の影響から体を休める保養の場所として山梨県に小旅行に訪れる家族も多くいます。

 放射線量の高い地域の子供たちは、山梨県に保養に来ては、普段制限されている外遊びを楽しみ、汚染のない食べ物を食べて、体を休めています。短期間でも汚染のない地域で空気を吸い、水を飲み、汚染されていない食物を摂ることにより、体内放射能値が低下することは、チェルノブイリの研究からも明らかになっています(※5)。
 甲府市は、官での定住支援・観光支援を充実させると共に、民での被災者支援の応援をお願いいたします。

※5 ウラジーミル・バベンコ/ベルラド放射能安全研究所「自分と子どもを放射能から守るには」、世界文化社、2011年9月。
以下、山梨県内の避難支援活動を具体的に列挙します。
<官>
  • 早川町~町ぐるみで移住支援の活性化。山村留学の制度で、戸建2棟を移住者に格安で貸与。給食費、修学旅行費は無料化。震災で移住する人を支援する市民団体も近日設立された。
<民>
  • 甲府市屋形 被災転入者の自宅にてホームステイ受け入れ、実績2家族。
  • 北杜市 市民団体「4月3日のひろば」では、福島の子どもたちを招いて、3泊4日の保養バスツアーを実施。実績は、昨年6月、7月、8月の計3回。
  • 北杜市 森のようちえんPTAが、福島で交流のある幼稚園のPTAに、震災以来、水を送り続けている。
  • 河口湖町 NPO・世界快ネット(快医学ネットワーク)では、河口湖の施設にて放射能汚染地からの保養者を受け入れている。2011年夏、7家族、年末年始1家族、3月14日~1家族が滞在中。会員の中には自宅に子供を受け入れ、里親になっている人もいる。
  • 河口湖町 昨年夏、学校の休みを利用して500名の被災地家族を無料で受け入れ、キャンプを実施。(タレント・清水国明氏が主催)

 甲府市が災害廃棄物の広域処理を請け負うか否か、そしてどのような被災地支援ビジョンを策定するのかということは、地方行政として、私たち住民や汚染地の方々の「いのち」とどのように向き合うのかという一点に尽きます。
 私たち「いのち・むすびば~放射能からいのちを守る山梨ネットワーク~」は、甲府市が、災害廃棄物の受け入れに関しては、安全性が確保できず、正しい情報の共有化や県民・市民的な議論が行われない現状のまま安易に可否を判断しないこと、また被災地支援として、甲府市の特徴・特色を活かした方策を模索して下さるよう、陳情いたします。