甲府市@山梨県のICT社会

こうふDO計画 基本計画書

現状と課題

目 次
1.現状と課題
 1.1 情報システムを取り巻く状況
  1.1.1 情報システムプロジェクトにおける問題
  1.1.2 委託形態・契約手法の多様化
  1.1.3 システム整備の考え方
 1.2 国等の情報システムに関する取り組み
  1.2.1 国等における情報政策の動向
  1.2.2 他自治体の動向
 1.3 本市における情報システムの現状と課題
  1.3.1 情報システムの現状
  1.3.2 情報システムの諸課題
  1.3.3 今後の取り組み

1.現状と課題

1.1 情報システムを取り巻く状況

1.1.1 情報システムプロジェクトにおける問題

(1) 情報通信技術の急速な変化

情報システム関連の技術は年々変化と進歩を続け、今後も変化をし続けると予測されている。価格性能比が向上する、効率的な処理が可能になる、等のメリットがある一方で、官公庁を含む業務処理のための情報システム(業務システム)の世界においては、経営上・業務上の理由やメーカーの対応等の理由により、常に新しい技術を採用し続けることは現実的には不可能であり、新旧様々な技術を混在させざるを得ない等の弊害が現れている。

EASOA等、システム全体を整合させようとする新しい概念が提唱・実施されているが、メーカーから提供される業務パッケージが主流である業務システムの分野においては、これらの概念に全てのシステムを合わせることは非常に困難であり、システムの運用期間中にこれらの概念自体が更新されたり、概念自体が変わってしまったりすることを想定した上で採用を検討する必要がある。情報システムにおいて想定される長期の運用期間中には、技術トレンドの変更、ハードウェアの陳腐化・サポート停止、ソフトウェアの更新、他の新システム導入に伴う変更、等の問題が従来以上に高いリスクとなると予想される。

編注・論理矛盾があります。最初に検討すべき問題は業務システムをEAできるのは誰かということです。 システム考察、設計上の概念が進歩発展するのは当然でも、その事を考慮せねば業務にITが適用できないということはありません。 「メーカーから提供される業務パッケージ」利用を前提として派生する諸問題を検討するより、EAで再構築しながらIT導入のシステム設計から実用化までをどうすればできるかを考察せねばなりません。 その時の情報技術(ICT)で実現できるならば、その後のICT側での変動については考慮しなくてすむという場合もあります。ハードは陳腐化するのではなく、技術動向から見て何年先には故障修理が出来ない状態になるかが問題です。オペレーティングシステムはマイクロソフト社のサポート期限を考慮しつつ導入することを前提とせず、オープンソース等も含めた自由度の高いシステムを前提として考えることも可能です。

(2) 情報システムプロジェクトの品質

情報通信技術の進歩、システム化対象範囲の拡大、業務の複雑化、等に伴い、情報システムの開発・運用プロジェクトの困難度は増大し続けている。システムインテグレーション事業者(SI事業者)においても、困難なプロジェクトを担当できるマネージャは少なく、プロジェクト毎の品質に大きな差(当たり外れ)が出ている。

要件定義・設計・開発・テスト・運用それぞれの工程や、進捗・リスク等の管理に関して、属人的なスキルに依っているSI事業者が多く、体系化されたプロジェクトマネジメント手法やツールを全てのメンバーに徹底させることによって品質を一定以上に保つ取り組みは非常に限られている。このため、プロジェクトの各工程において、品質に起因する問題が頻発しており、委託側・事業者側共に予期せぬ負担を強いられる例が多く見られる。

特に、運用期間中にはSI事業者の担当する人材レベルが低くなることが多く、開発中のノウハウは失われ、人為的なミスによるトラブルが発生する等、運用期間におけるSIサービスの品質低下は大きな問題となっている。

情報システムプロジェクトの困難度の増大に伴い、PMBOKITIL等のマネジメントに関する方法論が提唱・実施されているが、これらは包括的なガイドラインであり、具体的に何を行なうかという方法が詳細に定義されているわけではないため、それぞれのプロジェクトで現実的に効果をあげるためには、結局のところそれぞれの事業者や担当者のノウハウに拠らなければならない場合が多い。こうしたことからも、公共側と事業者側の双方のパートナーシップにより、全体の品質を維持する仕組みを構築するためにも、これらの科学的、合理的な品質管理のスキームを根付かせる取組が重要になってきている。

1.1.2 委託形態・契約手法の多様化

(1) 委託形態・運用方法

情報システムの複雑化・困難化を背景に、適切な価格で適切なサービスを実現するという目的を達成するため、情報システムの保有・運用形態についても様々な工夫が行われている。

事業者等の運営するシステムをサービスとして利用するASPや、システムの共同利用等は、機器・ソフトウェア等の情報システムの資産価値が、運用期間終了後に激減することへの解決策としても有効である。機器・ソフトウェア等を資産として保有しないということは、財務的な観点だけではなく、運用期間中の情報システム環境の変化に対するリスクや追加費用を回避するという観点からも、今後は必須と考えられる。

情報システムばかりではなく、業務全般または、その一部の業務をアウトソーシングする取り組みが進められつつある。こうした場合、ノウハウが委託側に蓄積されず委託側には、品質や価格の適切性を判断する能力が失われる恐れがある。アウトソーシング初期の事業者選定時には、価格・品質交渉力が最も優位に行使できるものであり、契約後の運用段階における競争性を維持する工夫がなお必要とされている。

また、構築時と運用時で事業者を分け、運用時の競争性を確保する取り組みも行われているが、これは採用したシステムを、他社が責任を持って保守・変更が可能な設計がなされている場合にのみ有効であり、更に、委託者側が業務及び情報技術の両面で高いレベルの人材を確保し続けなければならない。

これまでは、委託者側が仕様を細かく指定し、製品を調達し、構築作業や運用作業を委託することで情報システムプロジェクトを進めていたが、今日ではこれらのマネジメントの困難度・重要性が非常に大きく高い専門性を要求されるようになっており、委託者側で全てマネジメントを行うことは現実的ではない。マネジメントを含めた様々な情報システム関連サービスを提供することが、事業者に求められるようになってきている。

こうした事業者側の有する優れたノウハウや手法を最大限生かすことにより具現化するメリットを享受しようとする場合において、委託者側の論理のみで整理されたいわゆる従来の詳細までを定めた「仕様」により、システム全般の管理を定めることは事業者側が多くの自治体において経験した課題やその解決策におけるノウハウ(ベストプラクティス)を有効に生かすことが出来ない面も多く、委託者側における「本当にシステムにおいて実現したいこと」と、委託契約上に定められる事業者側の責務に乖離を生じる原因となる可能性が高い。

(2) 価格設定・契約手法

情報システムのコストは、構築時だけを見れば明確であるものの、運用時、特に機能追加時やデータ連携・移行時のコストは、構築時の段階では明らかにされず、更にコスト積算もSI事業者独自の根拠によってなされている。また、運用時の追加作業は競争による価格交渉力が担保できない場合が大半を占めることから、システム運用時のコスト増大のリスクをどのように低減するかが大きな課題となっている。

ファンクションポイント法等によって、開発費用の積算を透明化する取り組みも見られるが、これもポイントあたりの機能や補正係数など、実際に計算する際にはSI事業者が意図的に指数を決定できるため、工数分解法と比較して画期的な解決策とはなっていない。

追加コストの問題に代表されるように、SI事業者の決定から時間が経つほど、委託側と受託側との認識のずれは拡大してゆくものであり、更にシステム運用時等における様々な問題やリスクを詳細に分類・定義し、具体的に解決方法を定義することが困難であることが問題となっている。

全ての事業者で共通の適正コスト算定方法の定義は困難であり、コストを適正に保つためには、事業者とのパートナーシップはもちろんのこと、インセンティブ等によりコスト抑制のモチベーションを事業者に持たせる等の、契約手法の整備も必要である。

システムの構築から廃棄にいたるまでの長期間、適正な品質を維持し状況の変化に適時適切に対応するためのモチベーションを共有するため、最初のスタート地点である、価格や契約の果たす役割は大きいと考えられ、この点に留意し手間とコストを十分にかけることにより、「システム投資」による効果を享受することが出来る。

1.1.3 システム整備の考え方

業務におけるシステム化対象範囲が拡大し続ける一方、情報システムに対する投資総額は一定規模に抑えられていることが一般的である。従って、どの業務に対しても同じように投資し、システムを開発するのではなく、業務の特質やその組織における位置づけによって、システム化の度合いや適用手法にメリハリをつける必要がある。

全ての業務が同レベルでのプライオリティを有するものではないという点については、公共側の内部においても異論が少ないところであるが、では具体的にどういう方法によりそれを整理し、庁内合意を得て決定していくかという方法論としての整理については課題が残る。

民間においては、企業の特色・競争力に直結するシステムは独自システムを開発し利用するが、その他の事務処理システムは、パッケージの業務ノウハウを取り込む方法(ベストプラクティス)が主流となってきている。この手法を用いることで、業務フローや画面・帳票等のシステム仕様の検討の手間や、開発に係る期間・コスト等を削減する効果もあげることができる。

地方自治体の業務においても、全てではないにしろ、こうしたベストプラクティスといわれる業務の形態になじむものも多くあると思われ、必要な独自性を確保しつつ、業務の効率化を実現することが可能と考えている。

システム全体の最適化を進めるという点においては、業務間での連携や最終的な取りまとめをする業務など、従来の方法では「しわ寄せ」が生じがちな業務を中心にその前後の処理(業務)及びデータ構造を適正化することにより全体としても最適化に向かうものと考えられる。こういった考え方を設計思想に取り入れているパッケージを導入することで、システムの最適化を一度に進めることも可能である。

図1.1.3 業務とデータの流れ

税業務の流れで例示すると、賦課業務で処理された情報が収納業務に受け渡され、収納業務からは滞納整理業務と統計(決算)業務に情報が渡されることとなるが、ややもすれば賦課業務においては公平・適正な賦課業務にフォーカスして取り組みを進め、収納業務においてもその業務においての役割を最重要視する中で業務が進められる中で、結果として滞納整理や計数整理に当たる業務で「しわ寄せ」が生じることになってしまう。

業務毎の最適化に向けた努力はそれぞれ評価されるべきであろうが、税業務全般の最適化に向けて滞納整理業務から収納業務へ分納等の収納面での情報を流すと共に、賦課業務へは減免や納税義務者の的確な把握等の情報を受け渡す等、データと業務の流れを統合的に構築する取り組みが必要になる。いわば「部分最適」から「全体最適」へ向けた取り組みを進めようとするものである。

1.2 国等の情報システムに関する取り組み

1.2.1 国等における情報政策の動向

(1) アウトソーシング・共同化の取り組み

総務省では、平成15(2003)年度に「共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略」を本格化し、昨年度は「共同アウトソーシング推進協議会」を設置する等、自治体間でのソフトウェアの共通化を図る中で、コスト低減やノウハウの共有化に資する事業を進めている。また、電子入札や電子申告等、共通ソフトウェアの利用も推進している。

共同アウトソーシング事業
共同化とアウトソーシングに関する総務省の方針等
google 共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略

こうした取組みは、ソフトウェアのコスト低減に一定の効果があるものの、システムを実装・運用する業者との関係を適正化する部分は今後の課題となっている。

一部ではEAによりシステム仕様を自治体側で定義しシステムを発注したり、オープンソースソフトウェアによるシステム構築が進められ、ソフトウェア関連コストに対する透明性の向上に効果をあげているが、これらは一から開発する場合には有効であるものの、業務パッケージが主流である分野に適用するのは現実的ではない。いわばベストプラクティスによる効率化の効果が及ばない、自治体がそれぞれの地域においてのニーズに基づいて行う事業や、また独自に競争力を求めるようなシステムおいて非常に有効な手法であり、EAなどにより進められる情報の収集、評価、分析は、当該自治体自らのありようを明確にし、今後あるべき姿を導き出すことで、現状とのギャップとそれを段階的に解決していくために必要なプロセスをナレッジとして定めたものとして考えることが出来る。

また、オープンソースの活用については、様々な面でその効果や有効性について既に多くの提言が行われており、本市においてもこれに賛同する点が多くある。特に、地域のIT企業の活性化やパッケージシステムによるベンダーの囲い込み戦略を回避することが可能となる点や、経費の透明性の向上など有効性は高いと考えている。そうした中でも留意すべきは、業務や市民サービスへの影響が大きいシステムの場合は、オープンソースソフトウェアによる性能・品質を保証するコストがかさむ恐れがあり、調査・開発・運用等のSIサービス費を含めた情報システム費全体に対するコスト削減効果を上げるには、更なる取組みが必要と思われる。

(2) マネジメント強化に向けた取り組み

政府や先進自治体において、意思決定層の幹部職員をCIOとして任命する例が多くなってきている。実際には、行政職員の内からCIOを任命し、高度な専門性や情報システム業界の情勢等に詳しい“CIO補佐官”を別に任命する例が見られる。しかし、組織全体を通し情報システムを最適化するためには、単にCIOを設置するだけでは不足であり、IT施策の実施を全庁的に管理・監督する専門組織が必要との認識が高まっている。中央省庁においても、内閣官房主導で、各府省においてPMOを設置する動きが始まっている。

1.2.2 他自治体の動向

(1) 先進自治体における取り組み例

この数年は、市町村合併に伴うシステム統合・移行が多く実施され、短期間かつ安価に最新パッケージに移行するような例や、住民向けコールセンターの開設、地域SNSの設置等住民サービス向上を主眼とした取組みが進められている。

また、中核都市を中心に、基幹システムをダウンサイジングしたり、5年程の期間で包括アウトソーシングをする等、これまでの問題点を解決するための取り組みが始まっている。

こうした中でも、それぞれの取り組みを概観すると、民間ノウハウの活用やリスク分担の明確化、委託者側と受託事業者側のコミュニケーション、パートナーシップの強化という点でこれまで以上に配慮が図られている。

(2) 県内における取り組み例

県内では全国でも有数のネットワーク環境が整備されてきている中、市町村合併における情報システム統合を契機として、住民サービスに力点を置いたシステムの再構築が見られる。 平成15(2003)年度より開始された電子申請受付共同事業においては、導入にあたってPFI的な事業方式(延払方式、業績連動支払い、サービス品質保証、性能発注方式等)を活用し、コスト面、品質面において所期の成果をあげているところである。そのため各市町村においても庁内システムの導入等にあたり、こうしたノウハウを活用した取り組みが開始されている。

1.3 本市における情報システムの現状と課題

1.3.1 情報システムの現状

本市では、様々な要因を分析する中で、行政の情報化と地域の情報化を一体的かつ効果的に推進するための中期的な計画として、平成16(2004)年3月に「甲府市地域情報化計画」を策定し、電子市役所の構築等関連する施策の着実な推進を図っているところである。

本計画では、庁内各部局に課題を設定しその解決に努めることとしているところであるが、全庁的に取り組む必要のある現行の汎用機を中心とした基幹業務系(住民記録や税料等)システムの再構築についても最重要課題として位置づけ目標に掲げている。

特に、この汎用機を中心としたシステムは、運用経費が多額であり、システム改修の費用や時間に多くを必要とする等、本市が情報システムに求める高水準のコストパフォーマンスや即応性、さらには住民サービスに寄与すべき効率的な事務等とは懸け離れた状況にある。

1.3.2 情報システムの諸課題

(1) 技術面の課題

汎用機中心の古い技術を採用しているため、関連機器等が(修理交換含む)が高価であり、システムの追加修正や、他システムとの連携に多くの手間と費用が必要となっている。特に、SI事業者における人材不足(2007年問題)もあり、過去の設計・修正情報や業務ノウハウが散逸し、僅かな追加作業であるにも関わらず、他団体の例や最新システムにおいて提案されている例と比較し、多額の費用を請求される事態も見られる。

また、システム連携やEUCにより、システム内の業務データを活用して効率的な業務を実現したいが、これも技術的・費用的な制約により実現できていない。

(2) 契約面の課題

採用する技術に依らず、当該事業者しか扱うことのできないシステムが多く、契約後は業者が固定化され競争原理が機能しにくいことから、価格交渉力の低下を招くほか、運用時におけるバージョンアップやセキュリティ対応、システム移行時におけるデータ出力等、システムのライフサイクル全体における総額費用が、事業者選定時に予測できておらず、結果として高コストとなっているシステムが存在する。

システムの調達においては、提案書を評価し事業者を選定する方式が採られているが、契約において事業者の提案内容が実施義務として明確になっておらず、更に問題に対する責任とリスク・費用分担が詳細に定義されていなかったため、契約後に問題が発生した場合には、何ら有効な取り決めが無いまま交渉を行い、結果として質の低いシステムの方が高い費用を要するという問題が指摘されているが、これは本市においても例外ではない。

製品の納入や構築・運営作業の一部を委託するという考え方ではなく、マネジメントやリスク管理を含めたシステム関連サービスを提供することが事業者の役割という考え方に立ち、事業者の義務範囲を明確にし、システムのライフサイクル全体をカバーする具体的な契約手法の整備が必要とされている。

(3) 運営面の課題

情報通信技術が複雑化し、システム化範囲も広範になる中、SI事業者の自主的な取組みだけでは、前述のとおり、システム全ての品質や価格を適正に保つことはできなくなっている。マネジメントを含めたサービス全体を事業者へ委託するにしても、事業者が行うマネジメントの詳細を確認し、評価・指摘を行うことは委託側の役割であり、そういった活動を通してサービス提供事業者を適切にコントロールしてゆくことができる人材の育成・体制の整備が急務である。

今後もシステム開発・運営プロジェクトが複数実施される中で、システムの全容を把握し事業者側の問題点を的確に指摘する役割は更に重要となってきており、このようなプロジェクト管理を専門的に担う体制及び人員を確保し、管理ノウハウの手法化によるスキルの継承を実現してゆかなければならない。

1.3.3 今後の取り組み

本市としては、こうした状況を踏まえ、今後の情報システムの導入・運用にあたり、コスト削減、可用性の向上、業務効率化等の点において有効な、ダウンサイジング及び最新のパッケージシステムの導入を進めると共に、情報システムの発注、構築、運用におけるリスクの回避やシステムの質を確保する点において有効な、アウトソーシング及びサービス調達についても併せて進める、「こうふDO(ダウンサイジング・アウトソーシング)計画」を実施することとなった。これらの手法についての詳細は後述するとおりである。

 

このページに掲載のテキスト等は行政公開資料(PDFファイル)をHTMLで編集して掲載しました。

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