リニア中央新幹線

橋山禮治郎 参考人意見、衆議院国土交通委員会 2016年10月26日

西銘恒三郎委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案審査のため、参考人として、政策研究大学院大学政策研究センター所長 森地茂君、京都大学大学院工学研究科教授・交通政策研究ユニット長 中川大君、東京女子大学現代教養学部国際社会学科経済学専攻教授 竹内健蔵君及びアラバマ大学名誉教授 橋山禮治郎君、以上4名の方々に御出席をいただいております。
(以下略)
橋山参考人 橋山でございます。

 交通政策とか交通インフラに対して御見識の高い先生方の前でこういう私見を申し上げる機会を与えていただいて、大変光栄に思います。御礼を申し上げます。

 私は、きょうの問題、ちょっと今回の法案の改正について重点があるのかどうかということについてはわかりませんでしたけれども、そこだけの問題ではなくて、リニア計画そのものについて私の考え方を申し上げて、それで、最後に自分なりの政策論を申し上げて御参考にしていただくと大変うれしいと思いまして、参りました。

 そもそも、今、3人の参考人の意見にありましたように、非常に明るい成功したプロジェクトも日本には大変あります。最も成功したのは、私は確かに東海道新幹線だと思っています。あるいは長期経済計画だったら所得倍増政策であったと思います。

 ところが、公共事業とかあるいは国家プロジェクトということになりますと、これは光と影と両方ございます。必ずプラスがあるから我々はやろうではないかという声が出てきて、それで誰がやるかとかいう話になって、政治がかかわって予算をつけて進めるというようなものが多いわけでありますけれども、考えてみますと、過去に国あるいは公共団体が関与して失敗した具体例もたくさんあるわけであります。

 ですから、リニアは、これまで以上に大規模な、9兆円以上のお金をかけて実現したいということで始まろうとしているプロジェクトでありますので、その参考のために過去の例を考えてみますと、失敗したものが結構ございます。

 先生方の御異論もあるかもしれませんが、私は多くの海外とか国内の長期プロジェクトを検証するという研究をやってきた者でございますので、客観的に私が評価したところでは、成田国際空港、それから東京湾横断道路、関空、それから諫早干拓、福島原発、高速増殖炉の「もんじゅ」、こういうものは成功したととても言えないと思います。つまり、今でもその問題を引きずって、国が大変困って検討しておりますけれども、外国でも、例えば超音速機コンコルド、それからチェルノブイリ原発、それから、ドイツは事前にリニア計画を中止いたしました。

 そういうことがございますので、そういう過去の事例から私が考えますと、プロジェクトをやるときに重要な条件があろうかと思います。それは、レールではありませんが、二輪、二つの車がちゃんとあるかどうか、動くかどうかということであります。

 一つは、目的が明確であるかどうかということです。

 目的というのは、国民が本当にそれを欲しているか、それから、大義名分があるか、同意を得ているかということであります。何のためにやるかというホワイでございます。それがまずあって、よし、それでは、そういうプロジェクトはいいではないか、やろうじゃないかと国が決めて、国会が予算をつけるとか法案をつくるとかということになりますと、それはそれで大変大きな一歩であります。

 もう一つは、それが実際にできるかということであります。これは目的に対して手段であります。

 手段というのは、誰がやるかとか、何をやるかとか、どのようにやるかとか、いつやるかとか、そういう、これは5W1Hといいますけれども、5つの、ホワイとかフーとかホエアとかいろいろありますが、それプラス1Hであります。つまり、ハウですね。どのようにやるかということが非常に重要です。つまり、その5つがちゃんとあれば、これは非常に立派なプロジェクトとして遂行され、結果もよし、国民もその公益を大変享受できるということになろうかと思います。

 そこで、私は、これをやるときに考えて、今まで検証してきた結果から、今度の法案が成功するかどうかということを見るのに、全てそれを証明するのは、採算性があるかどうか、それから安全性が確保されているかどうか、それから環境に対する配慮がちゃんとあるかということの3つだと思います。この3つのうち1つでも欠けているプロジェクトは、先ほど申し上げたような失敗に終わっております。

 そこで、リニアについて私は進めたいと思いますけれども、リニアはなぜつくるかということであります。

 初めは、会社の方は、需要がふえてきて輸送能力が足りなくなってきたから、輸送力をふやさなければいけないということを言っておりました。それから、いざ、太平洋の南の方からの大地震、東海道大地震とかいうことがあったときには輸送力が大変麻痺するから日本がおかしくなるということで、代替輸送をちゃんと確保するためなんだ、こうおっしゃっていました。それから3つ目は、これからの時代は高速時代、スピードの時代だ、それがイノベーションの方向だ、こういうことをおっしゃってきましたけれども、これは全て私は真実を語っておらないと思います。

 輸送力の推移を見ていただきますと、そんなにふえておりません。時々ふえたり減ったりということはありますが、確実にふえていくということはとても考えられません。長期でほとんど横ばいに近い傾向であります。これから人口が減る、20年後には1億人を割るというぐらいのところまで、それから、出張族でもあるサラリーマン、生産年齢人口は約25%も減るという時代が見えておりますから、その前提で考えますと、この目的は非常に妥当性を欠いておるというふうに思います。

 それから、きょうもお話に出ましたけれども、学者とか政府の方でも、もう一つの理由として、これだけのことをやれば7千万人の巨大メガリージョン、巨大都市圏ができる、こういうことを言っております。これは、ああそうかと思いがちですけれども、現にできております。東京―大阪間の都道府県の人口を足したものがこの数字でありますけれども、現にできております。それを、今度リニアができるから7千万人の巨大都市圏がまたできるんだということは二重計算であります。

 なぜ、そういうことを言って国民がああそうかと思うか。それは、政府も事業主体も国民に情報を開示していないからであります。これが国民的プロジェクトになるのはまことに残念なことで、もっと国民に知ってもらって、国民が、よし、やってくれということになったら、これはまさにプロジェクトとして成功の可能性が非常に高くなると私は思います。

 そこで、国策としてこのリニアを考えてみますと、東京―大阪間だけに全く第三の鉄道、つまり、在来線の狭軌、それから新幹線の広軌をやってきまして、それがほとんどめどがついてきていますが、そこをやっている最中に東京―大阪間にもう一本つくるというのを、全く世界でやっていない、それから実証されていないリニア技術というものを使ってやるんだということを決めたわけです。今回、法案まで出てきているんですけれども、これを国会で法案もつくっておりません、了承もしておりません。閣議決定もしておりません、閣議了解もしておりません。そういうことで、おもしろい、速いからいいじゃないかといってこの事業は認可されました。これは幾ら何でも、もうちょっと国民の声を聞く。

 それから、リニアじゃなくて中央新幹線ということで基本計画に入っていますから、それをやるならばどういう方法がいいか、ハウですね、そのことについても十分検討したかといったら、ほとんどしておりません。先生方はもういろいろなことでそういうことについてはお気づきだと思いますけれども、ドイツなんかは、リニア計画は、これは鉄道ではない、磁気浮上方式基本法というのをちゃんとつくって、別の評価をしてやっていました。結果的にそれは、後で申し上げますが、中止させました。

 こういうことで、日本の政治とか行政の決定プロセスに非常に不健全、不十分なところがあったということは申し上げたいと思います。

 それで、日本列島のど真ん中のところを新幹線が入れないということでつくるということは、全国の高速ネットワークを阻害することになります。つくるなら、私は、在来方法の最新鋭のシステムを入れるということであれば、北から南、東から西、全部日本列島の中央部を通して大きな動脈がさらにできる、こんなにすばらしいことはないと思いますけれども、そういうことになっておりません。

 それで、私はちょっと三人の意見と違うんですが、リニアは東京集中を促進する装置であります。

 つまり、現に東京へ東京へという動きが始まったのは新幹線ができてからであります。それを契機に大阪の大企業は東京にどんどん出てまいりました。それで、なかなか浮上しない。よし、それではといって関西の方々が要求したのは新国際空港であります。関空であります。関空も、御承知のように、急いでたくさんお金をかけてつくりましたけれども、がらがらであります。それで経営がおかしくなって、結局、営業権を売って何とかしなければいけないという事態になっていますから、これが成功というわけにはいきません。

 こういうことを見ると、やはりリニアをやることが、プラスだけではなくて、もう少し慎重に考えて検討して、政策として、国策として、よろしい、それはすばらしいことだということであってほしいと思っております。

 今、責任の所在がどこにあるかということがこれまた不明であります。東電の賠償問題もそうでありますけれども、誰が責任を負うんだ、あるいは、大事故が起こったときに誰の責任になるのか、賠償しろといったら誰がするのか、民間会社と政府との間の協定が決まっていません。法律もありません。そういう段階でやるということは、私は、非常に過去の失敗から学ぶところがまだあるのに、それを、いや、あんなことはもう二度とないよと、いつも日本は、ああいうことは異常なことで、二度とないんだからといって、チェルノブイリの研究もしないし、今の原発の原因もまだわかっていない。

 ですから、そういうことになってはやはりいけないので、その点についても、先生方は、国としてどこまでちゃんと責任を持ってやるかということを決めて進んでいただきたいというふうに私は思っております。

 それから、採算であります。

 採算は、一言で言うと需要があるという前提でやっていますけれども、私はそういうことは考えられません。人口が減る、それから企業が海外に工場をつくるということでありますから、私は、地方はもっともっといろいろ発展していただきたいというのは本当に強く思っていますけれども、そういうことがなくて、またつくれば、はっきり言ったら、心の中では、先生方の中でも、あるいは学者の中でも、本当は一極集中がもっと激しくなるねということを思っておると思います。

 今の傾向から見て、そのことについては逆流だということを、総理大臣でさえ、この前の委員会で、これは地方再生に対する決定的なあれになるということをおっしゃっていますけれども、私は多くの先生方といろいろ話をすることがありますが、その先生方は、いや、あんなことをやっても我々に関係ないよ、東京集中ばかり進んで逆だよということをおっしゃって、本音をお聞きすることが結構ございます。

 ですから、これは国民が、計画自体全体を十分検討して、国会で決めてやるということのプロセスがなかったということが非常に不幸なことだと思います。

 そこで、私は、安全の問題もありますけれども、ちょっと時間がありませんから、財政投入についてどう考えるか、有意性があるかということで私見を述べますと、これは、かつての住宅公団が住宅金融公庫を一緒にやるということと同じであります。
それは、いいか悪いかは別にして、財政がそういうところまでやるということは、かつて、90年代、日本で大問題になりまして、結局、財政のやることはどこまでにしよう、それからあとは民間にちゃんと責任を持ってやってもらおう、その大きな流れを国として決めたわけでありますが、そういうことをまた逆に崩すことにならないか、官と民との役割分担がまた不明瞭になって問題を起こすことはないかということが一つあります。

 ただ、現在、状況を見ますと、超低利の市場でありますから、本当に3兆円が必要であれば、3兆円はJR東海がみずから民間金融機関から借りることは容易であります。金利だって非常に低いわけです。ましてや、社債を出せばもっと低いわけです。だから、今回、工事費の三分の一に相当する建設工事費を国が出してやらなければそれができないということではないと思います。

 本当に意味があるというならばやっていただいていいと私は思いますけれども、それについて、早くやった方がいいというのはわかりますけれども、速い、1時間で行ける、あるいは時速500キロの鉄道を早くつくってほしいということをどれだけの国民が望んでおるか、こういうことについても客観的に考えた上で最終的な政策決定をしていただきたい。

 これは、普通の方々、企業人にも一般の国民にもそのことはできません。皆様の政治の次元としてこの問題を率直に受けとめて、今の段階までは来ましたけれども、まだ本格工事は始まっておりません。ただし、いろいろ問題があるということはもう出ておりますから、その問題について、今は、3兆円を出すかどうかというのは、それはやり方はちょっと問題はありますが、やること自体を私はどうということはありませんが、法案を見ますと、このためにと書いてあります。
つまり、JR東海の中央新幹線のために、限られた期間ではあるがといって融資をするという法案になっていますから、特定の会社に対する法律改正であります。そういうことは今までほとんどなかったですね。ですから、もしそれを一般化すれば、全国の、今困っておられる四国や北海道のJRとか、あるいは私鉄の会社が、それでは私どもに貸してくださいと言ったときに、超低利で30年、40年で貸すかということであります。その問題がありますので、そういうことまで含めてお考えいただきたいと思います。

 今言ったことを簡単に申しますと、リニアは本当に必要かということは、やはりもう少し考えた方がいい。やり出したら、中断とか中止、停止はできません。最後までやりますから、結果はまずかろうとやるということになりますから、そういうことになると、国民的に非常に不幸なことになります。

 それで、最後にドイツの例をちょっと申し上げて終わりにしたいと思います。

 ドイツは、初め、政府が民間会社の計画を認可しました。やってよろしいと。大変意見が出たんですけれども、やってよろしいと言いました。ところが、実験線をいろいろやり始めて、それから実用線に入ろうという作業の段階で、いろいろ状況が変わってきた。国会議員の方が、連邦議会が、これはもう一回再検討する必要があると言って、委員会をつくって精査しました。需要予測が前のとは大分違う、ちゃんとしたものを持ってきたかということがありました。出てきたものが依然として甘い。何だ、こんな需要がハンブルク―ベルリン間にあるかということがありました。コストがどんどん上がってきた。

 それから、これをつくったらEUの鉄道網にどういうプラスがあるか。プラスはありません。在来線に入れません。それから、国際列車が入ってこない、外国へ行けません。そういう、その場限りの分断的な一つのリニアというのは我が国に必要ない、ヨーロッパにも必要ないと言って、今、ヨーロッパの鉄道はみんな、高速ではなくて、重視する要素は安全性、利便性、省エネ性、そういうことをやっております。高速化という追求理念はございません。

 そういうことで、イノベーションというのは、今、自動車もそうですし、飛行機会社、航空機業界もみんな、安全性とか燃費だとか運転性とか、そういうことを重視しています。

 そのことを考えると、私は、ここ一年間ぐらいちょっと待てと。国会の決議で中断する。中断して、先生方がみんな衆知を集めて、この計画は本当に大丈夫か、国民の望むようなものにできるか、どういう問題があるか、それは解決できるかということを検討して、それで、よしとわかったときには、国の責任で、やってよろしい、うまくやれよということをちゃんと筋道を立てるということが政治家の先生方の将来世代に対する本当の責任だというふうに思います。

 以上でございます。(拍手)
以上、国会議事録から橋山禮治郎参考人の意見を抜粋したものです。
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参照・衆議院_会議録_第192回国会 国土交通委員会 第4号(平成28年10月26日(水曜日))