リニア中央新幹線 ストップ・リニア!訴訟

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訴状の目次
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第4章 本件認可処分は全幹法および鉄道事業法に違反する

第1 本件認可処分は全幹法1条および3条に違反する

本件認可処分は全幹法9条を根拠とするものであるが、そもそも中央新幹線の建設事業について同法を適用することは誤りである。

1 全幹法の目的および制定の経緯

1970(昭和45)年に制定された全幹法は幹線鉄道のうち、新幹線整備を目的とした法的枠組みになっている。同法成立の時代背景としては、1969(昭和44)年に制定された新全国総合開発計画(以下「新全総」という。)の影響が大きい。新全総は、1985(昭和60)年度を目標年度とし、わが国土を総合的に開発するための諸計画、諸施策の基本方針を定めたもので、特に過疎地域を解消し、全国土の均衡ある発展を狙ったものである。この目的を達成するためには、交通、通信の全国ネットワークの形成が必要であり、その一環として国土全域にわたる高速幹線鉄道網の整備を構想として提案している。

このような新全総の目標と整合させるかたちで全幹法1条は、同法の目的について「新新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もって国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資すること」と規定する。

上記制定の経緯からすると、全幹法は、全国的な鉄道網の整備を通じて全国の中核都市を連結することによって、新全総の目的である開発可能性の全国土拡大および均衡化を実現する目的を有するものといえる。

2 新幹線鉄道の路線

そして、上記新全総・全幹法の目的を受けて、全幹法3条は、新幹線鉄道の路線について、「全国的な幹線鉄道網を形成するに足るもの」でなければならないと規定する。すなわち、上記法律の目的である国土の総合的かつ普遍的開発を図り国民経済の発展と国民生活領域の拡大に資することができるような均衡のとれたネットワークを形成するに足るものでなければならない。加えて、同条は新幹線鉄道の路線について「全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するもの」でなければならないと規定する。「中核都市」とは、全国的視野に立ってみた場合に、ブロックの中心として中枢管理機能の集中している都市、あるいは各地域の開発発展の中核となるべき都市をいう。「有機的」とは客貨の流れ、その他輸送の実態に即して鉄道の機能が十分に果せるようにルートが設定されていることであり、「効率的j とは新幹線鉄道の高速性が生かせるようにルートが設定されていることをいう。

なお、かかる3条の内容を満たすものとして策定されたのが、いわゆる「整備新幹線」 5路線である(第3章第2参照)。

3 中央新幹線建設事業は、全幹法の適用対象ではない

中央新幹線は、全幹法1条および3条の定めに反するため、そもそも全幹法の適用対象ではない。以下理由を述べる。

第一に、中間駅である相模原、飯田、中津川の3駅については、「全国的視野に立ってみた場合にブロックの中心として中枢管理機能の集中している都市」および「各地域の開発発展の中核となるべき都市」にあたるかは疑わしい。したがって、全幹法3条の「全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するもの」にあたらない。

第二に、中央新幹線が採用するリニア方式はレール方式でないため、他の鉄道と相互乗り入れが出来ない。既存の新幹線鉄道網と接続することによって全国的な幹線鉄道網を形成することが不可能であり、貨物列車も乗り入れができないことから、全幹法3条の 「全国的な幹線鉄道網を形成するに足るもの」にあたらない。

第三に、全幹法1条が定める「地域の振興」について十分な効果が期待できない。そもそも、リニアモーターカーの高速性を最大限活用するのであれば中間駅は少なければ少ないほど良く、また中間駅ヘの停車も少なければ少ないほど良い。他方で、沿線地域にとっては「迷惑施設そのもの。」であるリニアモーターカ―の受け入れの条件として地域振興策が強く求められてきた経緯がある(中央新幹線小委員会第4回議事録等参照)。このような矛盾する二つの要請があるため、中央新幹線小委員会答申案においては、中央新幹線沿線地域の振興に関する記述がきわめて限定されている。上記答申は中央新幹線の公共性について、
 ① 三大都市圏を高速かつ安定的に結ぶ幹線鉄道路線の充実、
 ② 三大都市圏以外の沿線地域に与える効果、
 ③ 東海道新幹線の輸送形態の転換と沿線都市群の再発展、
 ④ 三大都市圏を短時間で直結する意義、
 ⑤ 世界をリードする先進的な鉄道技術の確立および池の産業ヘの波及効果
を挙げているが、沿線地域の発展に関する記述は ② において言及されているのみである。
しかも、② においては沿線地域が豊かな自然に恵まれた地域特性を活用し観光都市や環境モデル都市となる可能性があると述べるにとどまり、地域振興に関する実現可能性ある具体的諸施策の検討はほとんどなされていない。
審議会において議論されていることの多くは、東京・名古屋・大阪の三大部市圏を一体化し巨大な都市集積域圏を生み出すことヘの期待であり、地方都市から都心部ヘの移動時間の短縮は利便性を生みだす半面、いわゆるストロー効果によって地域経済の衰退をもたらす可能性が高い点については具体的な検討がなされていない。
このように、中央新幹線建設の目的は、開発可能性を全国土に拡大し、均衡化するという全幹法当初の目的と合致しない。

第四に、そもそも中央新幹線は整備新幹線にあたらず工事費用はJR東海という民間企業が負担するものであるところ、かかる民間企業の有する営利性は全幹法の目的と矛盾する。たとえば、JR東海は、中央新幹線小委員会第3回において、「民間企業として、経営の自由、投資の自主性確保の貫徹が大原則」と述べたうえで、高速道路無料化を見送り鉄道利用者の自動車移動ヘの流出を回避すること、および、税制面での軽減措置を国に求めている。開発可能性の全国土拡大および均衡化という全幹法の本来の目的からすれば、利用者には鉄道、飛行機、自動車など、移動目的や予算に合わせた多様な選択肢が用意されるべきである。JR東海の利益を確保するために利用者の選択肢を制限するとは全幹法の目的に反するものであり、中央新幹線事業に全幹法を適用すること自体が誤りといえる。

以上より、本件認可処分は根拠とする法を欠く違法な認可処分である。