リニア中央新幹線 ストップ・リニア!訴訟

第4章(1)
第4章(2)
第4章(3)
第4章(4)
第4章(5)
訴状の目次
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第4章 本件認可処分は全幹法および鉄道事業法に違反する

第2 本件認可処分は鉄道法5条1項1号および4号に違反する

1 本件認可処分は鉄道法の事業許可基準を満たす必要がある

 そもそも、鉄道事業者が新たに鉄道事業を経営しようとする場合、路線及び鉄道事業の植別ごとに国交大臣の許可処分を受けなければならない(鉄道法3条2項)。
そして、その処分の申請は「鉄道の種類」等に関する事業基本計画を記載した中請書をもって行わなければならないところ(鉄道法4条1項6号)、中央新幹線の「浮上式鉄道」 (鉄道法施行規則4条)も「鉄道の種類」に含まれている。すなわち、鉄道法はリニア方式について適用されることを前提に法整備がなされている。
 第1において述べたとおり、中央新幹線に全幹法を適用するのは誤りであるから、鉄道法を適用すべきである。
 また、仮に全幹法が適用可能としても、全幹法は鉄道法の特別法であり、以下で述べるとおり、本件認可処分は鉄道法の事業認可基準の充足を前提とするものである。

 本件認可処分は全幹法9条を根拠とするものであるところ、同条が規定する工事実施計画は全幹法8条が規定する建設指示に基づくものである。そして、全幹法13条1項は 「第8条の規定による建設の指示が行われたときは、当該指示に係る建設線の区間について、当該法人は鉄道法第3条第1項の規定による第一種鉄道事業の許可を受けたものとみなす。」と規定していることからすれば、全幹法8条の建設指示は当該事業が鉄道法3条の許可の基準を充足することを前提とするものである。
とすると、上記建設指示を受けてなされた本件認可処分も鉄道法3条の事業許可基準、具体的には鉄道法5条各号の基準をそれぞれ充足する必要がある。また、実質的にみても、 時速 200km 以上の高速度で走行する新幹線鉄道においては莫大な建設費・維持費負担に耐えうるだけの経済合理性や高度の安全性や環境負荷ヘの配慮が求められるところ、鉄道法5条1項各号の基準を満たすことが一般の鉄道事業以上に求められることは明らかである。

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2 鉄道法の許可手続および許可基準の概要

 先述したように本件認可処分については、鉄道法の適用があるか、もしくは鉄道法の基準充足を前提とすべきである。そこで、鉄道法が定める許可手続およひ許可墓準について概観する。

(1)鉄道事業の許可
  鉄道事業の許可は、「路線」ごとに与えられる(鉄道法3条2項)。
  許可申請書の必要的記載事項や添付書頻については同法4条が、また許可基準は同法5条が定める。

(2)申請書の記載事項
  申請書の記載事項には、「鉄道事業の種別」(2条の定める、第1種・2種・3種 の別)のほかに「国交省令で定める鉄道の種類」が含まれる((鉄道法4条1項6号)。
  省令で定める鉄道の種類は、 ①普通鉄道、②懸垂式鉄道、③跨座式鉄道、④案内軌条式鉄道、⑤無軌条電車、⑥鋼索鉄道、⑦浮上式鉄道、⑧その他の鉄道の8種類である(鉄道法施行規則第4条)。このうち⑦浮上式鉄道という「種類」は2000 (平成12)年の省令改正で導入された。

(3)鉄道法5条1項の定める許可基準
  鉄道法5条1項は、同法3条の許可基準として、その事業の計画が経営上適切なものであること(1号)、その事業の計画が輸送の安全上適切なものであること(2号)、前2号に掲げるもののほかその事業の遂行上適切な計画を有するものであること(3号)、その事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること(4号)の4つを定める。
  上記1号は、申請された事業基本計画が、鉄道事業の安定的かつ継続的な経営を行ううえで適切なものか判断するための基準である。
  2号は、申請された事業基本計画が輸送の安全を確保するうえで適切なものであるか否かを判断するための基準である。
  3号は、鉄道業の開始は、社会的、経済的影響が大きいため、鉄道事業の免許にあたっては1、2号の基準のほか、免許申請の内容に応じてさまざまな観点から専門的かつ技術的な審査を行う必要があることから、免許申請の内容の公益性及び必要性について判断を行うための基準である。
  4号は、申請者が免許を受けた後、適切かつ円滑に鉄道事業を遂行するだけの能力を有す るかどうか、具体的には、鉄道線路等の建設資金等事業を開始するために必要な資全の調達能力及び償還能力、事業を開始し、事業を適切に維持・管理するための経営管理能力、安全に鉄道線路等を建設及び維持・管理し、列車の運行を行うための技術的能力を有するかどうかについて判断するための基準である。
  そして、以下で述べるように、本件認可処分は鉄道法5条1項1号の許可基準を満たさない。

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3 事業の計画が経営上適切でなく、鉄道法5条1項1号の基準を満たさない

 鉄道法5条1項1号は、鉄道事業の計画が経営上適切であることを求める。そして、鉄道事業の計画が経営上適切であるためには、
  ①その事業の開始が輸送需要に対し適切であること、
  ②その事業の供給輸送力が輸送需要に対し過大でないこと、そして、
  ③適切な輸送需要とそれに見合った供給輸送量から導かれる収支予測が安定的かつ継続的な経営を行う上で適切なものであることが必要である(改正前鉄道法5条1項参照)。
 しかし、本件事業計画は、以下のとおり、身勝手な見込みに基づく合理性のない予測しか行なっておらず、事業の計画が経営上適切ではない。

(1)輸送需要の予測が不合理

 ア JR東海の需要予測

   JR東海は、中央新幹線品川駅・名古屋駅間の所用時間を40分と試算しているが、これは東海道新幹線品川駅・名古屋駅間の所要時間93分よりも約50分短い時間で到達できる。それに加えて、中央新幹線の料金設定が東海道新幹線のぞみ号の料金よりも700円高いだけということになっている。これらを前提に、JR東海は、品川駅・名古屋駅間の移動旅客が移動時間は短縮される一方で料金が700円しか上がらない中央新幹線を選択するという仮定のもと、次の3つの輸送需要を中央新幹腺に想定している。
    ①東海道新幹線(東京・名古屋間)からの転換需要
    ②航空路線からの転換需要
    ③誘発輸送需要及び高速道路からの転換需要

 イ 需要予測の不合理性

(ア)人口減少の点を無視
 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、日本国における2011(平成23)年時点の人口 1億2780 万人は、2030(平成42)年には 8.7% 減少し、2050(平成62)年には 24.0% も減少する。なかでも新幹線移動需要の大半を占める生産年齢人口は、2011(平成23)年時点の 8130 万人が、2045(平成57)年には 5253 万人まで減少すると予測されている。
 JR東海は、中央新幹線が品川・名古屋間で開業する2027(平成39)年から約10年間工事を停止して財務状況の回復を待ち、その後2037(平成49)年ころから名古屋・大阪間の工事に着工するとしているが、2027(平成39)年の品川・名古屋間開業後も日本国の生産年齢人口は減少の一途をたどる。
そうであるのに、JR東海は、2045(平成57)年の品川・大阪間開業時における中央新幹線と東海道新幹線の品川・名古屋・大阪間の総輸送需用量を 529億人km と予測している。
 2011(平成23)年時点での日本国の生産年齢人口が 8130 万人で、東京・名古屋・大阪間の輸送実績が 443億人km であったことに鑑みると、生産年齢人口が 6979 万人へおよそ15% も減少している2027(平成39)年において中央新幹線と東海道線の品川・名古屋・大阪間の総輸送需要量を 568億人km と 128% の大幅増で予測していること、生産年齢人口が 5353 万人ヘおよそ 35% も大幅に減少している2045(平成57)年において中央新幹線と東海 道線の品川・名古屋・大阪間の総輸送需用量を 529億人km と 122% の大幅増で予測していることが極めて異常であることは一目瞭然である。

(イ) 航空機利用者からの需要を過剰に予測

 JR東海は、平成39(2027)年に中央新幹線品川・名古屋間が開業すると、同区間の到達時間が短縮されることから、航空路線利用者からの転換需要が次のように見込まれると予測している。
・超電導リニアによる到達時間の短縮によるシェアの変化を推定
新幹線の到達時間新幹線のシェア
現行開業後20年度開業後
東京圏 ⇔ 大阪府145分103分82%90%程度
岡山県192分150分67%75%〃
広島県228分186分58%65%〃
山口県261分218分48%55%〃
福岡県291分253分10%15%〃

 しかし、航空機へ乗れば乗り換えなしで到達できていた地域へ、わざわざ品川から名古屋までは中央新幹線で移動し、上記各地域へ東海道新幹線に乗り換えて移動するという煩雑な経路選択を行う者がこのように増えるとは考えられない。品川地下駅ヘの乗車時間10分から15分程度及び名古屋での地下駅から東海道新幹線駅までの乗り換え時間15分程度かかることから、移動時間の短縮もほとんどないか、中央新幹線と東海道新幹線の接続がうまくいかなければ逆に移動時間が増える区間さえ生じる。
 また、この表の予測は、航空各社が、現在の価格設定と到達時間のまま何ら企業努力をせず、JR東海に需要を取られるのを漫然と見ているという前提をとりつつ、中央新幹線の東京・名古屋間の料金が開業から50年後も「のぞみ」+700円という前提で、中央新幹線優位の関係を一方的に固定化した予測である。しかし、すでにLCCなどの格安航空路線が登場していることを考えると、この予測がJR東海にとって都合の良いものであることは一目瞭然である。

(ウ)東海道新幹線からの需要移動は欺瞞

 JR東海は、現在の東海道新幹線のぞみ号利用者については、①東京圏~名古屋圏の利用者はもとより、②大阪圏をはじめ、③名古屋以西ののぞみ号利用者についても、リニア方式による到達時間短縮効果を踏まえて中央新幹線に転移するとして下表のとおり増収額を予測する。
東海道新幹線からの年間転移数当社の収入(税抜き)
料金アップ増収額
東京圏 ⇔ 名古屋圏2229万人667 円145 億円
大阪圏2523 万人165 億円
山陽圏4県440 万人30 億円
合計5192 万人340 億円

 しかし、このような予測は、高度な公共性を有する幹線高速鉄道に求められるものと しては楽観的に過ぎるといわざるを得ない。
 品川・名古屋間の移動について、約 50 分短縮されるのに対し、運賃が東海道新幹線のぞみ号より 700 円しか増額されないというその一事をもって、東京圏~名古屋圏、 名古屋以西及び大阪圏のほとんどの移動需要が中央新幹線に転移するとは考えられない。
 前述のとおり、品川地下駅ヘの乗車時間 10 分から 15 分程度及び名古屋での地下駅から東海道新幹線駅までの乗り換え時間 15 分程度かかることが予想され、50 分もの短縮効果はないばかりか乗り換えの面倒を考えると東海道新幹線の乗客のほとんどが中央新幹線に転移することは考えられないのである。そもそも、中央新幹線を含め、鉄道に求められる要素は移動時間の短縮だけではない。従来の鉄道との接続を基礎とした利便性、快適性、車窓の楽しさ、こういったものがない中央新幹線に対する不満や、安全性や電磁波に対する不安などは、中央新幹線に常に付きまとうものであるから、東海道新幹線のぞみ号の利用者がすべて転移してくるなど到底考えられないものである。

(エ)誘発輸送需要も未知数

JR東海は、飛躍的な時間短縮に伴い、都市圏間の流動、特に東京圏~名古屋圏の流動が大いに活性化することによる新規誘発や、高速道路からの転移による増収効果も十分に想定されるとしている。また、山梨県、長野県など中央新幹線各駅の新規利用や東海道新幹線「ひかり」「こだま」停車駅の利便性向上に伴う利用増も期待できるとしている。しかし、いずれもJR東海の希望を述べたものに過ぎず、このような誘発需要や高速道路利用者からの転移が期待できるか否かすら明らかでない。
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(2)供給輸送力が過大

 中央新幹線小委員会は、品川・名古屋間の中央新幹線の需要予測を l67 億人km/年とする。
 そして、JR東海が現持点で明らかにしている最大本数の品川・名古屋間毎時5本の往復運転で、午前6時から午後10時まで営業運転をした場合の供給輸送力は次の計算式となる。
  5 本 × 16 時間 × 286 km × 2 × 1000 人 × 365 日 = 167 億人km/年
 この計算式が意味するところは、品川・名古屋問の中央新幹線が、開業当初から毎時最大本数の5本を走らせ、かつ始発から最終まで全席満席でなければ 167 億人kmという小委員会が予測した輸送需要にこたえられないということである。
 現在の東海道新幹線においても座席利用率が 60% 程度なのであるから、リニア中央新幹線の座席利用率が 100% であることなど到底考えられない。
 そもそも品川・名古屋間開業時のリニア中央新幹線合計の需要予測 167 億人kmということ自体が現実離れした都合の予測であるから、この需要予測 167 億人kmに合わせた供給輸送力は、当然過剰であり、結局収支予側におおきな狂いを生じさせることになる。
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(3)安定的かつ継続的な経営を行うことはできない

 ア 過大な輸送需要を前提とした供給輸送力から導かれる非現実的な収益計算
   上記(1)(2)で述べた通り、JR東海は、過大な輸送需要とそれに沿った供給輸送力から導かれる非現実的な収益計算を行っているから、少なく見積もっても5兆4300億円はかかる品川・名古屋間の工事費等を返済することはできず、安定的かつ継続的なな中央新幹繰の経営を行うことはできない。
   それだけでなく、次の通り、品川・名古屋間の工事費等が5兆4300億円で納まるはずはなく、この点からしてもJR東海の収支予測からは中央新幹線の安定的かつ継続的な経営ができないことは明らかである。

 イ そもそも費用の予測が不十分

(ア) 中央新幹線計画 (品川・大阪間) は、1980年代末にはおよそ3兆円であったが、 1990年代末には5兆円、2007 (平成19) 年には9兆円と20年間で3倍にまで膨らんだ。 また、工事実施計画の段階では当初の予測よりも935億円の増額となっている(工事実施計画書参照)。バブル崩壊以降、資材、労務費、長期金利などがいずれも低水準で推移したにもかかわらず、ここまで建設費が膨らんだ背景には技術開発段階での管理の甘さがあったからであるが、現時点においても基本的には変わっていない。
 一般的に見ても、大規模インフラプロジェクトで実際の支出総額が当初計画を下回ったことはまずない。むしろ、完成までに当初予算の2~3倍の資金を投入したケースも珍しくない。

(イ) JR東海が公表している費用項目は、建設費 (品川・名古屋間5兆4300億円、名古屋・大阪間3兆6000億円)、維持運営費 (品川・名古屋間 1620億円、東京・大阪間 3080億円) の試算値にとどまり、その内訳は示されていない。
 建設費は、工事費、車両費及び土地取得費を含むが、品川駅・名古屋駅間で5兆4300億円と予測されている。
 工事費は、実行予算が当初予算を上回ることはあっても、下回ることはない。工事請負会社との契約工事費が工事進捗中に減額修正されることはあり得ないが、用地費上昇、工事中の設計変更、事故復旧工事、資材の高騰、長期金利の上昇等による増額は十分にあり得ると想定すべきである。
 ところが、JR東海の予測では、工事着工後当初20年問での物価上昇を 5 %しか見込んでいない。それどころか、建設中の金利負担分が未だに工事費に計上されていない。この建設中の金利負担分については、一つの試算では5400億円とも言われており (品川・名古屋間工事 : 3兆円 x 50% x 3% x 12年)、これだけの全利負担分を計上せずに収支予測を行っている。 さらに、JR東海は計画公表後に中間駅工事費を自社負担に変更したが(当初計画では5600億円の地元負担を前提としていた。)、この中間駅工事費増額分も計上されないまま収支予測を行っている。

(ウ) リニアは絶対にぺイしない
 2013 (平成25) 年9月18日、JR東海が準備書をまとめ、沿線ルート、停車駅の位置を公表したその日に、同社の山田佳臣社長 (当時)が記者会見において「(中央新幹線計画は)絶対にペイしない。東海道新幹線の収入でリニア中央新幹線建設費を賄ってなんとかやっていける。」と発言した。
 この発言は、中央新幹線計画は、それ単体では収支が合わないということを、計画を遂行する当の本人が認めたものであり、その意味するところは大きい。中央新幹線計画が路線としてその事業が安定的かつ継続的な経営を行う上で適切なものでないことは既に明らかである。
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(4)小括
 以上の通り、中央新幹線計画は、そもそも費用の予測が不十分で品川・名古屋間の工事費等が当初予算の5兆4300億円では到底納まらないことが既に明らかになっている。 しかも、それだけでなく、JR東海は、過大な輸送需要を行い、それに合わせた過大な供給輸送力から導かれる非現実的な収益計算を行っているが、そのような利益が生み出されるはずはなく、中央新幹線を安定的かつ継続的に経営することはできない。
 このように、いずれの点からしても、本件事業は、身勝手な見込みに基づく合理性のない予測しか行われておらず、事業の計画が経営上適切でないことは明らかであることから、本件認可処分は、鉄道法5条1項1号の基準を満たさない。
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4 JR東海は事業遂行能力を欠き、鉄道法5条1項4号の基準を満たさない

 JR東海は、中央新幹線小委員会において、中央新幹線の開通時期を品川・名古屋間について 2027(平成39)年、名古屋 ・大阪間について 2045(平成57)年としているものの、これはあくまで試算上の数値に過ぎず「ぜひこの年に開業したいという意味での目標とはちょっと意味合いが達う」と述べている。このことは、前項で述べたような事情から、JR東海自身、事業計画の経営上の適切性に自信が持てないことのあらわれである。
 加えて、現在のJR東海の最大の収入源は東海道新幹線の運行利益であるところ、利用者が東海道新幹線から中央新幹線に移行すればその分東海道新幹線の運行利益が減少することとなるため、中央新幹線の工事費負担(実際に工事を行えば当初の予定額を超える可能性が極めて高い。)を賄える程度の増収が見込めるとは到底考えられない。
 このような事情からしても、JR東毎は事業遂行能力を欠き、鉄道法5条1項4号の基準を満たさない。