第4章 本件認可処分は全幹法および鉄道事業法に違反する
第3 本件認可処分は輸送の安全性を欠き、鉄道法5条1項2号の基準を満たさない
- 1 中央新幹線に求められる輸送の安全性
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(1) 鉄道輸送業務における安全確保の必要性
(2) 安全の確保と公共性
- 2 リニア方式による輸送の安全性に対する疑問とその危険性
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(1) はじめに
(2) リニアそのものの技術的未熟性と事故発生の危険性
(3) 技術的未熱性と事故発生の危険性
- 3 地震・火災その他事故発生に関する安全性ヘの疑問と危険性
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(1) トンネル構造について
(2) 地震発生時の危険性について
(3) 事故発生による避難体制問題
(4) 火災発生時の危険性
- 4 本件認可処分は鉄道法5条1項2号に違反する
鉄道法5条1項2号は、認可基準として輸送の安全性を求める。しかし、以下で述べるとおり、中央新幹線は輸送の安全性を欠くものであり、上記基準に違反する。
(1)鉄道輸送業務における安全確保の必要性
鉄道事業の安全確保に関しては、鉄道営業法に基づき、運転の安全確保に関する省令 (昭和26年7月2日運輸省令第55号)(最終改正 運輸省令昭和45年9月10日運輸省令第79号)が次の通り、定めている。
第2条 従事員が服ようすべき運転の安全に関する規範は、左の(以下の)とおりとする。
綱領
安全の確保は、 輸送の生命である。
規定の道守は、 安全の基礎である。
執務の厳正は、 安全の要件である。」
イ 日本国有鉄道(以下国鉄という)の安全規範とその由来
①安全は輸送業務の最大の使命である。
②安全の確保は、規定の遵守及び執務の適正から始まり、不断の修練によって築きあげられる。(以下略)」
運転事故は発生すれば、必ずと言ってよいほど、人的、物的損害を伴う。
特に列車の場合は、大量の旅客や商物を輸送しているので、その悲惨なこと、目をおおうばかりである。しかも、これが、一瞬のうちにおきてしまう。(中略)特に何ものにも代えがたい尊い人命を一度に、しかも大量に失わせることは重大なことである。人命以上に尊いものは、世の中に存在しない。この人命を尊重する精神こそ、安全確保の基盤でなければならない。」
以上のとおり、鉄道輸送業に伴う安全の確保は、最大の使命であると位置づけられ、規範化されたものである。これらの規範は、国鉄の分割民営化後においても引き継がれてきた。
② 安全の確保は、規定の遵守及び、執務の厳正からから始まり不断の修練によって築きあげられる。(以下略)」
以上に明らかな通り、鉄道が、安全に関する綱領をもち、安全は輸送業務の最大の使命と位置付けるのは、特に鉄道事業が、不特定多数の人を対象に、大量の輸送業務にあたるもので、一旦事故が発生すると、瞬時に多数の人命の喪失等悲惨な結果が生じるところから、人命の安全の確保こそが何よりも優先して求められるという、公共的使命に基づくものである。したがって、鉄道事業者の行う業務中における安全の確保は、極めて重要かつ公共的な使命であり、単なる私的会社の私的なものではないうえに自己資金によってまかなうとしても、安全性の確保は、公共性のあるものであることは当然である。安全性が確保されているとは断定しきれない状況のもとで、敢えて運行するならば、それば利用者である旅客を実験台にする危険なものであり、前記安全に関する規則に反するものでありなおかつ公共性にも反するものであることは明白である。
(1)はじめに
上記のとおり、鉄道輸送業務においては安全性の確保こそが最重要課題であり、なおかつ多数の乗客が利用するところから、人命の安全確保が最大限求められる公共的使命をを鉄道事業者は負うものである。中央新幹線が全体的に安全な輸送方式と言えるか否かは重要な問題であり、いやしくもその安全性がいささかでも疑われ、危険性に疑問を持たれるものであってはならない。利用者は実験台であってはならないからである。そこで計画されている中央新幹線について、その安全性に対する疑いと危険性について以下に述べる。
(2)リニアそのものの技術的未熟性と事故発生の危険性
イ リニア方式新幹線の特徴
(イ) 中央新幹線は、駆動モーターを開いて軌道に直線状に伸ばし、N極とS極の作用により推進力を得るというものである。ここまでは浮上が必然的に伴うものではない。ところが、現在検討されている中央新幹線は、超電導磁気浮上式の技術を用いるものである。超電導式の外に常電導式がある。この違いは、車両側に超電導式磁石を、軌道側に通常の電導式磁石(常電導)を用いるか(中央新幹線方式)、車両側も軌道側も常電導式磁石を用いるかの違いである。磁気浮上式は、強力な磁界により、吸引と反発により推進力と浮上力を得るために、超電導状態を維持するべく液体ヘリウムで超電導磁石をマイナス269度に冷やして車体側に設けるのである。これにより推進力と浮上を得ることができる。
ウ リニア走行方式技術の未熟性
(イ) しかし、いくら走行実験を行ったとしても、この技術の未熟性と危険性を指摘せざるを得ない。それは従来の鉄道と中央新幹線とは走行方式に関し、全く概念が異なるからである。レール方式の鉄道において、従前から安全性の中でも意を砕いて来たのは、脱線防止対策である。脱線防止のためには、レールとの密着度を高めることが最重要課題としてきた。その理由は車輪のせり上がり(浮き上がり)の防止である(せり上がれば脱線する)。東海道新幹線においてもこれが最重要問題のひとつであった。以下にその図を示す。
(ウ) ところが中央新幹線の走行方式は、これとは180度異なる概念となっている。従来の鉄道は、如何にせり上がらせ(浮き上がらせ)ず、レール軌道に密着させ、レール上を安定走行させるのかが課題であった。そのレール走行方式鉄道は、160年という長い技術上の試練と蓄積を経て安全性を積み上げてきて、レール軌道上の安定走行と高速化を完成させ、現在ではようやく時速300km台運転が可能となったのである。
(エ) これに対し、リニア走行方式は、レール走行方式とは異なり、逆に如何に浮き上がらせるかが課題なのである。浮き上がらせるということは、軌道との密着性が失われるということになる。レールによらずして軌道上にそって安定走行させるために、本件リニア走行で用いられたのが、ガイドウェイによる走行方式なのである。ガイドウェイによる走行方式は、ガイドウェイ装置に囲まれているので、軌道からの逸脱を防ぐことが出来るように見えるが、ガイドウェイ内の車体は僅かな空隙を持ってガイドウェイとの間隔を保っているとともに、僅か10cmで浮き上がっており、どこにも固定されていない。このような状態が極めて不安定であることは明らかである。そうであるにもかかわらず、リニア走行方式は、長い技術上の歴史的試練を経ることなく蓄積もなく、いきなり時速500kmを達成しようというものである。安全性について技術上の歴史的試練を経ていない未熟な技術と言わざるを得ない。
(3)技術的未熱性と事故発生の危険性
ア クエンチ現象
(ア) 中央新幹線はガイドウェイと車体の僅かな空隙を保ちつつ、地上より10cm浮上させて走行させることに特徴がある。推進力を得つつ、地上より浮上させるためには、超電導磁石の強力な力が必要になる。電気抵抗がゼロになる状態を保つことによって、電流を永久に流し続けることが可能になり、これにより超電導磁石により強力な磁界が得られ、浮上と推進が可能になるのである。
(イ) ところが、中央新幹線にとって大敵がある。それがクエンチ現象といわれるものである。
クエンチ現象とは何らかの原因により磁力が消滅することで、超電導状態が失われることである。中央新幹線は、浮上と推進を得るために、ガイドウェイ側には常電導、車体側に超電導磁石を取り付ける。この超電導磁石の強力な磁界により、浮揚力と推進力を得なくてはならない。そのために、膨大な電力が必要となると同時に、中央新幹線においては液体ヘリウムによってマイナス269度に冷却する必要があるのであるが、これが何らかの故障により冷却機能が失われた場合浮揚力と推進力が失われてしまう。故障については様々な問題が考えられる。
例えば、山梨実験線においても、クエンチ現象による事故が生じていたのである。1999(平成11)年9月4日付山梨日日新聞がそれを報道している。
同報道によると、1999(平成11)年8月、3両編成の実験車両が、甲府方面に時速400kmで走行中、トンネル内で超電導磁石の磁力が低下し、車輪走行に移ってから停止した、とされている。その原因については、超電導コイルにマイナス269度の液体ヘリウムを供給するステンレス製の管(直径3cm)の接合部に長さ1cmの亀裂が入ったことによりヘリウムが容器内に漏れ、外部の熱が伝わったために磁力が低下したと見られている、と報道されている。
しかも山梨実験線で起きた事故は、宮崎実験線でしばしば起きていたクエンチ現象とは違う原因によるものといわれているという。
このように通常の状況のもとにあっても、機器の僅かな不良原因から、クエンチ現象が起こらないとも限らない。まして、走行中のガイドウェイや、地上に衝突した際に衝撃によって起こる車両損壊事故(小なるものから大なるものも含め)によって、冷却機能が失われ超電導状態が機能しなくなることも想定される。更に全電源喪失状態に至った場合においても、同様に超電導状態は機能しなくなる。
この場合タイヤ走行により地上走行に移り停止させるとしているが、車体に損傷が発生した場合に車輪が作動せず地上走行が不可能になることもあり得る。そうすると次の駅までタイヤ走行して乗客の安全を確保する等到底不可能な事態に至る。
イ ドイツの選択と安全の問題
このように、リニア方式については、安全性が確保された技術とは到底言えないものである。ドイツでは1978(昭和53)年に、超電導式磁石による浮上技術の開発を断念したといわれている。そもそも安全について、予測不可能あるいは予測不明確な技術を用いるべきではない。想定外であったとの言い訳が通用しないのは、原発事故において明らかになったところである。ドイツの選択は安全面からみて当然の選択である。鉄道は速度の新記録を追求する陸上競技ではない。安全性を無視してまで一部の技術者達の自己満足のスピード競争であってはならない。
(1)トンネル構造について
また、地上部においては、以下の方式の高架橋を採用するとしている。 その構造は以下のとおりである。
(2)地震発生時の危険性について
ア 中央新幹線トンネル内において、あるいは高架橋等において、地震により水平方向または垂直方向の地盤のずれが生じた場合、ガイドウェイの僅かな間隔内に浮いているに過ぎない車体は、極めて危険な状態におかれる。地震は水平方向のずれと垂直方向のずれが想定される。地震により水平方向に段差が生じた場合ガイドウェイが破壊される。垂直方向にずれが生じた場合、走行軌道の地盤面が破壊される。
浮き上がって走行するといってもガイドウェイとの空隙が僅かしかなく、また地上僅か10cm浮き上がるに過ぎない。例えば、地盤面に垂直方向の段差が生じたら、僅か10cmの浮上にしか過ぎないのでこの段差を到底吸収できないと考えられる。そうなると、高速走行中であるから、破壊されたガイドウェイあるいは周辺のトンネル壁または施設に、破壊された走行地盤面に、車両は激突し車両が破壊されるに至る。
イ このように地震等によりトンネルの外側から大きな力が加わることで、ガイドウェイが歪みあるいは破壊が想定される。この点、JR東海は、中央新幹線は、磁気バネの作用により、車両をガイドウェイ中心に保持する力が働く、あるいは案内ストッパ輪により車両とガイドウェイの直接衝突を防止する仕組みになっているとしているが、しかし、このような仕組みは、ガイドウェイに損傷がないことを前提にしており、ガイドウェイそのものが歪んだり、破壊されたりしてしまった場合には、ガイドウェイと車両との激突が避けられない。また、高架橋からの逸脱落下転覆も想定される。その結果、多数の乗客が死傷する深刻で悲惨な事態が発生する恐れが想定される。
ウ そればかりか、時速500kmで走行中の車両は急に停車出来ない。速度が高速になればなるほど、停車距離は累乗的に長くなる。
地震の発生を予知するP波(初期微動)により、本震到来を予測したとしても、本震到達前に安全に停止させることは不可能となる。又直下型地震に対しては予知が殆ど出来ないので停止することもできず、高速のまま激突による車両破壊に至る危険性がある。
中央新幹線は緊急時に時速 500km から停止するまでの時間に 90 秒程度を要し、距離についても約 6km を要するといわれていることからすれば、トンネル内の異変を察知して急停止をしたとしても、車両が相当程度の運動量を持ったままガイドウェイに激突する危険は否定できない。
更にはトンネルそのものが地震等により崩壊してしまう場合には、ガイドウェイの崩壊のみならず、車両本体の進行そのものが不可能になってしまい崩壊したトンネルそのものに激突してしまう危険性も否定できない。
エ 中央新幹線は、中央アルプスなど国内有数の山岳地帯を通過する。
この山岳地帯には我が国最大の断層帯である中央構造線が走っているほか、中央地溝帯によって日本列島が東と西に分けられている。この区間では断層のほかに破砕帯も存在している。このような場所に中央新幹線を通すことは、自ら危険を招くに等しい行為である。本年(2016年)4月の熊本で起きた地震を見てさえ、震度7を記録し、断層のずれが最大で2mも生じた。このように断層のずれが生じれば、トンネルそのものが崩壊し、あるいはガイドウェイが歪みまたは破壊される危険性がないとはいえず、車体がトンネルそのものに、あるいはガイドウェイに激突し破壊されてしまう危険性は否定できない。
(3)事故発生による避難体制問題
ア 地震による場合に限らず、何らかの走行中の事故発生(それはクエンチ現象や火災事故をはじめとして日常起こり得る様々な車両故障など)が考えられる。特に中央新幹線は、大深度地下に土管のようなトンネルを掘り、その中を 時速500km の猛スピードで走行する。東京・名古屋間の 86% 以上が土管型トンネルまたは半円型トンネルであり、運転手はおらず、遠隔操作の運行となる。
イ 時速500km 走行時に事故が起きた時に、人命の喪失・負傷など大惨事が想定される。人命が喪失しないまでも重傷を負った者は脱出できない。仮に身体は脱出可能状態であっても避難は容易ではない。避難口はあるとはいえ、その間隔は都市部でも 5km と大きく、更に山岳地帯では非常口の避難経路が著しく長い。このようなトンネルの中で、乗客はどのような避難が出来るのか。
(ア) 例えば地震やトンネル内の火災その他の事由により、車両がトンネル内で停止することが考えられる。そして、トンネルの崩壊など運転再開が物理的に不可能な場合には乗客が車両を降りて避難する必要がある。また、トンネルの崩壊がない場合であっても、技術的に高度なシステムで運行されていることや長大なトンネルであることからすれば安全点検に時間を要するとみられ、その場合にも乗客が車両を降りて避難することは想定される。
(イ) この点、JR東海は、山岳トンネル区間においては、保守用通路及び整備新幹線等と概ね同程度の間隔で計画する非常口を避難通路として活用できるように整備するとしたうえで、南アルプス等山岳地帯においては、本坑に並行して掘削する先進坑を活用する計画であり詳細は今後検討するとしていたが、最近明らかにされたJR東海の計画によると山岳地帯における非常避難路そのものは、山梨県南巨摩郡の 3900m を始め静岡県では 3500m、その他 2000m から 3000m台のものがある。これとても計画の概略であり、明確なことは分からない。まして、これは避難路だけのことであり、車両が停止した場所から本線に沿って避難しなければならない距離を加えれば、とうていそれだけの距離で済むものではなく避難距離は著しく長くなることが想定される。
(ウ) しかも、避難通路の整備を計画したとしても、現実に避難できるかどうかの検討をしなければ乗客の安全性を考慮した計画とはいえない。そもそも、中央新幹線のルート上にある南アルプス等の山岳地帯は、非常口避難路の距離が著しく長いため、負傷者、高齢者や足腰に障がいのある者はもちろんのこと、それ以外の者にとっても避難することが困難である。また、大人数が避難するのであるから距離が長ければ長いほど混乱を防ぎながら避難の誘導をすることは難しくなる。さらに、非常口に到達したとしても大自然の真っ只中であって十分な救助活動が可能なだけの地理的要件と設備が存在するとはいい難い。このような設備を新設するのであれば設置管理に相当な費用を要すると見込まれるし、環境保全の見地からも慎重な考慮が必要となる。加えて、周辺自治体の警察・消防・病院等の既存のインフラと連携する仕組みづくりが必要になるが、これらのインフラをとってみれば相当な負担となる。このような事態への対応が検討されているとは考えられない。
(エ) とりわけ、地震等により避難を余儀なくされた場合には、非常口の最寄りの自治体もまた被災していることが想定され、十分な救助が出来ないことも考えられる。このように南アルプスの山岳地帯における避難経路の確保と乗客の安全性の確保は、著しい困難が容易に想定される。それにもかかわらず、このような検討が不明確であることは、JR東海の安全性を軽視する態度の現れであり、直面している問題に誠実に向き合わない無責任な態度というべきである。
(4)火災発生時の危険性
ア 鉄道火災は、自然発火または人為的な放火、技術的未熟性による発火、あるいは地震等による車両及びガイドウェイ等施設の事故等による発火によってトンネル内火災が起こることが想定される。このような場合には、避難口に向かって、煙は流れ上昇し、逃げようとする乗客を覆い、乗客の多くは窒息死する危険性がある。また、火災により電源が喪失した場合には、換気機能が失われて、乗客が窒息死する危険性もある。照明設備が機能しなくなれば、避難そのものが困難となる。
イ 以下に火災事故に関し、実例をあげ、その危険性を述べる。
(ア) 地下鉄における、火災事故事例
地下鉄火災で、有名なものとして、2003(平成18)年12月18日発生した韓国の地下鉄火災事故がある。これは韓国の大邸地下鉄1号線、中央駅で発生したもので、死者197名、負傷者147名を出した大惨事であった。死因は窒息死及び焼死であったと言われる。この事故は、車内にいた乗客の1人が、ガソリンをまき、ライターで火を付けたことから、火災が車内に広がり、更に対向してきた電車にも燃え広がり、乗客は車内に閉じ込められたままにされたことによるところが大きい。地下深度は18mであり、煙により、救出活動が困難であったことも、災害を大きくした原因とされている。
(イ) 新幹線における火災事故
2015(平成27)年6月30日、午前11時30分頃、新幹線の新横浜・小田原間を、走行中の「のぞみ」の先頭車両において火災事故が発生した。これは、乗客がガソリンを頭からかぶり、ライターで火を付けたことにより、火災が発生し、車内が煙に包まれ充満し、乗客は脱出したものの、2名が死亡したほか受傷者が出た。この事件では、運転手の機転により、停車場所をトンネル内を避けたために、乗客の脱出もトンネル内に比べれば容易で、死亡者2名を含む負傷者を出したものの、被害が少なくて済んだ。これがトンネル内において発生した場合においては、より被害が拡大したといわれている。
(ウ) 青函トンネルにおける避難
2015(平成27)年4月3日、青函トンネル内で発煙事故が発生した。青函トンネルは全長 5,385km であり、海面下 240m にあり、避難階段は 1372段 である。走行中の列車から発煙した。全乗客は脱出したが、ケーブルカーの収容能力に問題があり、結局全乗客が地上に脱出できたのは事故発生後5時間以上を要した。一歩間違えれば大惨事に至るところであった。
ウ 大深度地下内における火災事故と乗客に及ぼされる危険性
火災の発生については、JR東海は、万が一車両で火災が発生した場合には、停車して消火作業はせず、次の停車場又はトンネルの外まで走行して停止させ、避難誘導を行うとしている。しかし、実際にはそのような対策は不可能となる危険性がある。火災の規模や原因物質の種類にもよるが、車内の乗客が、長時間にわたって、高温の状態におかれ、あるいは、有毒ガスを吸引するなどして、生命身体の危険にさらされる。また、燃焼を継続したまま次の停車場又はトンネルの外まで走行してきた場合には、走行そのものにより火災の規模が拡大する可能性もある。また火災発生から長時間経過していることも想定され、火の手が大きくなった状況下で、特に大深度地下内で、さらなる延焼を防止しつつ消火を行い、同時に、大勢の乗客を速やかに避難させ、負傷者の救助を行わなければならない。これらの多くのことを短時間に効率的に行うことは、容易なことではない。
エ 大深度地下内の事故が大惨事を生む
(ア) 韓国の地下鉄火災も、日本の新幹線火災も、いずれも放火が原因であった。中央新幹線の場合にも、同様の事故が発生しないとも限らない。また、巧妙な手段によるテロも考えられる。しかしながら、これらの人為的原因によらずとも、当然、地震等による災害による、走行そのものに伴う火災や鉄道施設の火災が発生することも予測しておかなければならない。それのみならず、日常的に発生し得る車両・その他施設故障に伴う、火災事故発生もあり得る。
(イ) そのような事故が発生した場合、中央新幹線は、路線全体の 86% が大深度地下を走行するものであるから、火災事故が発生した場合、大深度地下内においては、前述のとおり、多大の困難と危険性が伴うことは容易に予測される。ところが、JR東海の火災発生時における避難対策は、到底十分なものとは言えない。
(ウ) リニアには運転士は乗務せず、車掌のみとなる。その場合火災発生との関係で、遠隔操作の運転指令などに、状況の迅速かつ正確な把握と、それに対する対処が可能であろうか。また、車掌等乗務員のみで、事故発生時乗客を適正に誘導できるであろうか、また都市部の地下 60~100m という大深度地下内、南アルプス地下では約 1500m もの深さから、乗客が脱出中に煙害から完全に免れることが出来るであろうか。大深度地下内での救助は可能であろうか。むしろ、路線の 86% がトンネルであることからすれば、これらに対する対策は、極めて困難か不可能と考えられる。脱出口までの距離が長い上に、脱出設備が十分とはいえない。電源が喪失した時、換気機能が失われ、あるいは、エレベーターも機能しないことが想定される。仮にエレベーターが作動したとしても、多数の乗客の脱出にあたってエレベーターの収容力は不十分であると言わざるを得ない。
このように中央新幹線計画は危険に満ち満ちている。
以上のとおり、中央新幹線については、その走行方式そのものに起因する危険性と、事故が発生した場合における避難救護体制に起因する危険性が予測されるものであり、乗客に対し死亡・負傷、あるいは避難不能、救護不能等の悲惨な結果が想定される。現実に建設運行されるとすれば、そのような危険性を無視し、乗客を実験台とするものである。これは人命の軽視であり、安全輸送綱領にも反するものである。本件認可処分は輸送の安全性を欠くものであり、鉄道法5条1項2号に違反する。